残置物撤去の完全ガイド

賃貸物件からの退去後、相続した空き家、あるいは不動産取引の後に残された家財――。

これら「残置物」の問題は、物件の所有者や管理者にとって、頭の痛い大きな課題です。

一見するとただの「不要品」に見えるかもしれませんが、その裏には複雑な法律問題が潜んでおり、安易な対応は深刻な金銭的・法的リスクを引き起こす可能性があります。

「早く片付けて次の入居者を募集したい」「どう処理すれば法的に問題ないのかわからない」といった悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、残置物の法的な定義といった基本の知識から、勝手に処分した場合のリスク、費用の相場、そして信頼できる専門業者の選び方まで、分かりやすくご説明したいと思います。

「残置物」とは

「残置物」とは

残置物問題を正しく理解するための第一歩は、その法的な性質を正確に把握することです。

多くのトラブルは、「残されたモノ=ゴミ」という誤解から始まります。

ここでは、残置物の定義と、類似する「遺品」「忘れ物」との決定的な違いを明らかにします。

残置物の定義

残置物とは、建物の所有者や以前の住人が、引っ越しや契約終了、相続などの理由で退去する際に、意図的に残していった私物(動産)全般を指します。

具体的には、家具、家電、衣類、食器、そして時には現金や貴重品まで、あらゆるものが含まれます。

重要なのは、これらが法的に「所有者が所有権を放棄したゴミ」とは直ちに見なされない点です。

たとえ第三者から見て価値がないように思えるものでも、法律上は元の所有者の財産として扱われます。

「遺品」「忘れ物」との法的な違い

残されたモノは、その状況によって法的なカテゴリーが大きく異なります。

この分類を間違えると、対応方法も誤ってしまい、法的な問題に発展しかねません。

  • 遺品: 賃借人や所有者が亡くなった場合に残された物品は「遺品」と呼ばれます。これらは故人の「相続財産」の一部となり、民法の相続法に基づいた手続きが必要です。通常の残置物とは異なり、相続人がその取り扱いを決定する権利と義務を負います。
  • 忘れ物・遺失物: 所有者が意図せず落としたり置き忘れたりしたモノは「遺失物」として扱われ、「遺失物法」の適用を受けます。駅や店舗での忘れ物が典型例で、この場合は警察への届出が基本的な対応となります。

一方で残置物は、所有者がかつて占有していた空間に残されたものであり、所有者との観念的な結びつきが残っている点で、遺失物とは区別されます。

これらの違いを明確に理解するために、以下の表にまとめました。ご自身の状況がどれに当てはまるかを確認することが、問題解決の第一歩です。

種類法的地位主な関連法規主な対応窓口・手順
残置物元の所有者の所有物民法所有者への連絡、法的手続き
遺品相続財産民法(相続法)相続人への連絡、相続財産清算人
忘れ物・遺失物遺失物遺失物法警察への届出

このように、モノが残された背景によって、準拠すべき法律も、取るべき手続きも全く異なります。

特に「遺品」を単なる「残置物」として扱ってしまうと、相続人の権利を侵害する問題に発展する可能性があるため、注意が必要です。

所有権は元の所有者にある

残置物問題を考える上で、絶対に忘れてはならない大原則があります。

それは、「残置物の所有権は、依然として元の所有者にある」ということです。

賃貸借契約が終了したからといって、あるいは物件の売買が完了したからといって、残された物品の所有権が自動的に大家や新しい所有者に移転することはありません。

元の所有者が明確に「所有権を放棄します」という意思表示をしない限り、それらは法的に他人の財産であり続けます。

この原則を無視して他人の財産を勝手に処分する行為は、次の章で詳しく解説する深刻な法的リスクを伴います。

この点を理解することが、残置物トラブルを回避するための最も重要な鍵となります。

なぜ勝手に処分してはいけない?「自力救済禁止」と法的リスク

「自力救済禁止」と法的リスク

「連絡もつかないし、家賃も滞納しているのだから、残されたモノくらい処分してもいいだろう」

そう考える気持ちは理解できます。

しかし、日本の法制度はそのような個人的な権利行使を禁じています。

ここでは、その根底にある法原則と、それを破った場合のリスクについてご説明します。

日本の法律の基本原則「自力救済禁止の原則」とは?

判例法上確立された原則に、「自力救済禁止の原則」という基本的な考え方があります。

これは、たとえ自分に正当な権利(例えば、滞納された家賃を回収する権利や、物件を明け渡してもらう権利)があったとしても、裁判所などの公的な手続きを経ずに、自らの実力(腕力や強制的な手段)でその権利を実現してはならないという原則です。

これを残置物の問題に当てはめてみましょう。

大家には「契約通りに部屋を空の状態にして返してもらう」という権利があります。

しかし、その権利を実現するために、大家が自ら鍵を開けて中に入り、借主の所有物を強制的に運び出して処分することは、「自力救済」にあたり、原則として違法とされます。

この原則が存在する理由は、もし誰もが自分の判断で実力行使を始めれば、社会の秩序が保てなくなるからです。

権利の実現は、あくまでも中立的な国家機関である裁判所を通じて行うべき、というのが法治国家の基本姿勢なのです。

「正当防衛・緊急避難」など刑法上・判例上の例外を除き、原則は裁判所の手続(明渡訴訟→強制執行)で解決すべきです。

勝手に処分した場合の「民事責任」と「刑事責任」

自力救済禁止の原則を破り、残置物を無断で処分してしまった場合、物件所有者は「民事」と「刑事」という二つの側面から責任を問われる可能性があります。

民事上の責任(損害賠償請求)

元の所有者から、不法行為(民法第709条)として、処分された物品の価値に相当する損害賠償を請求されるリスクがあります。

大家側が「ガラクタだ」と思っていたものでも、所有者にとっては価値のある品(思い出の品、高価なコレクションなど)かもしれません。

その価値は所有者が主張し、裁判所が判断するため、予想外に高額な賠償を命じられるケースも少なくありません。

明渡しや残置動産の処理は、民事執行法に基づく強制執行・目的外動産の処理等、執行官ルートで行うのが適法です。

刑事上の責任(刑事罰)

他人の所有物を勝手に処分する行為は、犯罪に該当する可能性があります。

具体的には、器物損壊罪(刑法第261条)に問われる可能性があります。

さらに、借主の占有がまだ続いていると解釈される状況で無断で部屋に入れば、住居侵入罪(刑法第130条)に問われることもあり得ます。

これらのリスクをまとめたのが以下の表です。

責任の種類根拠法規具体的な内容想定される結果
民事責任民法第709条(不法行為)所有物の価値に対する損害賠償処分した物品の価値(+慰謝料)の支払い命令
刑事責任刑法第261条(器物損壊罪)等他人の財産を違法に破壊・処分懲役または罰金刑

国土交通省「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」や「残置物の処理等に関するモデル契約条項」等では、残置物の所有権は原則として借主に属すること、処理の手順・契約条項の整備が示されています。

無断処分はトラブル・責任リスクが大きいので注意しましょう。

残置物撤去にかかる費用相場と内訳

残置物撤去にかかる費用相場と内訳

残置物撤去には、単純な片付け費用だけでなく、場合によっては法的手続き費用や特殊な清掃費用など、多額のコストが発生する可能性があります。

専門業者に残置物撤去を依頼した場合の費用は、主に「残置物の量(体積)」「作業員の人数」「作業時間」によって決まります。

また、物件の階数(エレベーターの有無)、トラックまでの搬出経路なども料金に影響します。

以下は、間取り別の一般的な費用相場です。あくまで目安であり、荷物の量や状況によって大きく変動します。

間取り料金相場作業人数目安作業時間目安
1R・1K30,000円~80,000円1~2名1~2時間
1DK50,000円~120,000円2~3名2~4時間
1LDK70,000円~200,000円2~4名2~6時間
2DK90,000円~250,000円2~5名2~6時間
2LDK120,000円~300,000円3~6名3~8時間
3DK150,000円~400,000円3~7名4~10時間
3LDK170,000円~500,000円4~8名5~12時間
4LDK以上220,000円~600,000円4~10名6~15時間

費用を安く抑えるための3つの工夫

高額になりがちな撤去費用ですが、いくつかの工夫で負担を軽減することが可能です。

【工夫1】自分でできる範囲を片付ける

業者に依頼する作業量を減らすことが、費用削減の最も直接的な方法です。

雑誌や衣類、小物といった一般ゴミを自治体のルールに従って自分で処分したり、荷物を分別して一箇所にまとめておくだけでも、業者の作業時間が短縮され、人件費を抑えることができます。

【工夫2】買取サービスがある業者を活用する

残置物の中に、まだ価値のあるものが含まれている場合があります。

当社でも残置物の中から買い取れるものは、お見積りを出させていただいております。

製造から5年以内の新しい家電、ブランド家具、骨董品、趣味のコレクションなどは、買取の対象になる可能性があります。

撤去業者の中には買取サービスを併設しているところも多く、撤去費用から買取金額を相殺してもらうことで、総支払額を大幅に減らせる可能性があります。

【工夫3】複数の業者から見積もりを取る(相見積もり)

これは最も重要なポイントです。

撤去費用は業者によって大きく異なるため、必ず最低でも3社以上から見積もりを取りましょう。

料金だけでなく、作業内容、許可の有無、対応の丁寧さなどを総合的に比較検討することで、適正価格で信頼できる業者を見つけることができます。

極端に安い見積もりには、後から高額な追加料金を請求されたり、不法投棄されたりするリスクが潜んでいる場合があるため、注意が必要です。

【孤独死の場合】特殊清掃にかかる追加費用

入居者が亡くなってから発見まで時間が経過した場合、通常のハウスクリーニングでは対応できない汚染や臭気が発生します。

この場合、専門的な技術と薬剤を用いる「特殊清掃」が必要となり、残置物撤去費用とは別に追加の費用が発生します。

特殊清掃の費用は汚染の度合いによって大きく変動しますが、数万円から、床や壁の解体を伴う場合は数十万円、場合によっては100万円を超えることもあります。

日本少額短期保険協会の孤独死対策委員会の「第9回孤独死現状レポート」によれば、孤独死現場の原状回復にかかる費用の平均は約31.5万円、残置物処理費用と合わせると平均で約54万円にものぼるというデータもあります。

これは、孤独死のケースでは無視できない大きなコスト要因です。

自分で撤去?業者に依頼?メリット・デメリットを徹底比較

残置物撤去に直面したとき、多くの人が「自分でできるだろうか?」「それともプロに任せるべきか?」と悩みます。

この選択は、費用だけでなく、時間、労力、そして法的な安全性にも大きく関わってきます。

ここでは、両者のメリットとデメリットを多角的に比較し、ご自身の状況に最適な選択ができるようサポートします。

残置物の撤去方法

残置物撤去の方法は、大きく分けて「全て自分で行う」か「専門業者に依頼する」の2つです。

もちろん、一部を自分で行い、大変な部分だけを業者に依頼するという方法もあります。

どちらが最適かは、残置物の量、自身の時間的・体力的余裕、そして法的な知識の有無によって決まります。

「全て自分で行う」か「専門業者に依頼する」の比較

以下に「全て自分で行う」か「専門業者に依頼する」の比較表を作成しました。

あなたが「全て自分で行う」か「専門業者に依頼する」どちらの選択肢を選ぶべきかを判断するための参考にしてみてください。

比較項目自分でやる業者に依頼
時間・労力デメリット: 非常に多くの時間と労力がかかる。分別、梱包、搬出、自治体への手続きなど、全てを自分で行う必要がある。メリット: 大幅に時間と労力を削減できる。依頼すれば、あとは待つだけで完了する。
費用メリット: 業者への依頼費用がかからないため、総費用を安く抑えられる可能性がある。デメリット: 専門的なサービスのため、数万円から数十万円の費用がかかる。
分別・手続きデメリット: 自治体ごとに異なる複雑なゴミの分別ルールを調べ、粗大ゴミの予約など、全て自分で手続きする必要がある。メリット: 面倒な分別や法的な手続きは不要。業者が全て適切に行ってくれる。
大型品搬出デメリット: 大きな家具や重い家電の搬出は困難で、怪我をするリスクや建物を傷つけるリスクが高い。メリット: 専門のスタッフが安全かつ確実に搬出してくれるため、安心できる。
精神的負担デメリット: 特に遺品整理の場合、思い出の品と向き合いながらの作業は精神的に大きな負担となる。メリット: 第三者が客観的に作業を進めてくれるため、精神的な負担が大幅に軽減される。
買取デメリット: 価値のあるものがあれば、自分でリサイクルショップに持ち込むなど、別途手配が必要。メリット: 買取サービスを併設している業者が多く、撤去と買取を一括で依頼でき、費用を相殺できる。
スピードデメリット: 週末などを利用して少しずつ進めるため、完了までに数週間から数ヶ月かかることも珍しくない。メリット: 迅速な対応が可能。量によっては1日で作業が完了することもある。

この比較からわかるように、「自分で撤去する」方法は、費用を抑えられる可能性がある一方で、時間、労力、安全性において多くのデメリットもあります。

残置物の量が少なく、時間に余裕があり、かつ法的な権利関係がクリアな場合に向いてると言えます。

残置物が多い、大型の家具・家電がある、法的な手続きが絡む、あるいは精神的な負担を避けたい場合には、「専門業者に依頼する」方法が向いている可能性もあります。

どちらがいいかじっくり検討してみましょう。

残置物撤去業者の選び方と悪質業者対策

専門業者に依頼すると決めた場合、「どの業者を選ぶか」という重要な問題があります。

残念ながら、この業界には法外な料金を請求したり、不適切な処理を行ったりする悪質な業者も存在します。

ここでは、信頼できる優良業者を見極めるための具体的なチェックポイントと、トラブルを未然に防ぐための知識を解説します。

優良業者を見極めるチェックリスト

悪質な業者を避け、信頼できるパートナーを見つけるために、以下のチェックリストを活用してください。

問い合わせや見積もりの際に、これらの点を確認することが不可欠です。

チェック項目確認するポイント
□ 許認可の有無自治体の「一般廃棄物収集運搬業許可」を持っていますか?(または許可業者と提携していますか?)
買取も行うなら「古物商許可」はありますか?
□ 会社情報の明確さホームページに会社の正式名称、所在地、固定電話番号が明記されていますか?
□ 見積もりの方法無料で、かつ必ず現地を訪問して見積もりを作成してくれますか?電話だけで金額を確定させる業者は危険です。
□ 見積書の内容作業内容の内訳が詳細に記載されていますか?「作業一式〇〇円」のような曖昧な表記は注意が必要です。
□ 追加料金の有無見積もり後の追加料金は一切発生しないことを、書面やメールで明確に約束してくれますか?
□ 損害賠償保険万が一、作業中に建物や他の家財を破損した場合に備え、損害賠償保険に加入していますか?
□ 実績と評判ホームページに具体的な作業実績や利用者の声が掲載されていますか?第三者の口コミサイトなども参考にしましょう。

これらの項目を一つひとつクリアできる業者は、法令を遵守し、顧客に対して誠実な対応を心がけている優良業者である可能性が高いと言えます。

悪質業者の手口とトラブル発生時の相談窓口

万が一のトラブルに備え、悪質業者が用いる典型的な手口と、困ったときの相談先を知っておきましょう。

よくある悪質な手口

  • 無料回収の罠: 軽トラックで「無料で不用品を回収します」とアナウンスしながら巡回し、荷物を積み込んだ後で「運搬費」「作業費」などの名目で高額な料金を請求する。
  • 不当な追加料金: 最初は安い見積もりを提示し、作業当日に「想定より荷物が多かった」「特殊な作業が必要だった」などと理由をつけて、法外な追加料金を要求する。
  • 強引な契約: その場で契約を迫り、断ると威圧的な態度を取ったり、高額なキャンセル料を請求したりする。

トラブルに巻き込まれた場合の相談窓口

もし高額請求などのトラブルに遭ってしまったら、一人で悩まず、すぐに専門機関に相談してください。

  • 消費生活センター(消費者ホットライン):局番なし 188契約トラブルや悪質商法に関する相談を専門の相談員が受け付けてくれます。業者との交渉について助言をもらえたり、場合によっては間に入ってくれたりすることもあります。
  • 警察相談専用電話:#9110脅迫された、無理やり金銭を支払わされたなど、身の危険を感じるような犯罪行為があった場合は、こちらに相談してください。

まとめ

まとめ

この記事では、残置物撤去という複雑な問題について、その法的背景から具体的な解決策までを網羅的に解説してきました。

最後に、安全かつ確実に問題を乗り越えるための最も重要なポイントを改めて確認しましょう。

残置物の問題は、物理的な片付け作業であると同時に、法律の問題も関係してくるものでもあります。

もし少しでも手続きに不安を感じたり、状況が複雑で判断に迷ったりした場合は、決して自己判断で進めず、早い段階で専門家に相談することを強くお勧めします。

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