
目次
はじめに
残置物関係事務委託契約とは、賃貸物件の賃貸借契約終了後に残された荷物(残置物)の整理や処分などの事務手続きを、あらかじめ指定した第三者(受任者)に委ねる契約のことです。
簡単にいえば、入居者が退去あるいは亡くなった後に部屋に残った家具や家電、衣類、日用品、ごみなどの残置物を、オーナー(貸主)や管理会社に代わって処理してもらうための取り決めです。
特に入居者が高齢の単身者で、万一お亡くなりになった場合に残された荷物をどうするかを事前に決めておく重要な契約となっています。
この契約は、国土交通省と法務省が策定した「残置物の処理等に関するモデル契約条項」に基づくもので、いわば入居者の死後の事務手続きを委任する契約(死後事務委任契約)の一種です。
賃貸借契約時に入居者(借主)と受任者との間で結ばれ、受任者が入居者の代理人として賃貸借契約の解約手続きや残置物の整理・処分を行えるように取り決めておく仕組みです。
なお、残置物関係事務委託契約は、同様に入居者死亡時の手続きを委ねる「解除関係事務委任契約」(賃貸借契約の解約手続きを代理人に委任する契約)と対をなす形で活用されます。
これら二つの契約を組み合わせ、賃貸借契約とは別個に締結しておくことで、契約の解除から残置物の処理まで一連の対応を受任者に任せることができるのです。
以下では、この契約が生まれた背景や具体的な内容・手続きについて詳しく解説します。
(※「残置物の処理等に関するモデル契約条項」に関しましては『「残置物の処理等に関するモデル契約条項」とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
残置物契約が必要とされる背景
超高齢社会の進展に伴う賃貸現場の課題と解決策 – 近年、日本では高齢の単身世帯が増加し、賃貸住宅市場でも単身高齢者の入居希望者が増えています。
しかしその一方で、物件オーナーや管理会社の中には高齢の単身入居者を受け入れることに不安を感じ、入居を敬遠するケースも少なくありません。
特に「もし入居者が亡くなったらどう対応すればいいのか」という心配は大きく、実際に以下のような課題が指摘されてきました。
- 契約解除手続きの煩雑さ: 入居者が亡くなった後、賃貸借契約を誰がどうやって終了させるのか不明確で、手続きが滞りがちになる。相続人の所在が分からない場合や、連絡が取れない場合には、契約の合意解除や通知受領といった手続きに時間と手間がかかります。
- 相続人の捜索・連絡の問題: 入居者に家族・親族(相続人)がいても、すぐに特定できなかったり連絡がつかなかったりすることがあります。その間、契約解除も残置物処理も進まない状態が続きます。
- 残置物を勝手に処分できない法的リスク: 賃貸借契約終了後も部屋に残された家財道具は基本的に故人(亡くなった入居者)やその相続人の所有物です。オーナーや管理会社が無断でそれらを処分すれば、後に相続人から「勝手に財産を処分された」として法的トラブルになる可能性があります。実際、従来はオーナー側が残置物の扱いに苦慮し、処分に踏み切れずにトラブルに発展するケースも報告されていました。
- 残置物処理費用の負担不明: 部屋の荷物を片付けて処分するには専門業者への委託料や清掃費など相応の費用がかかります。誰がその費用を負担するのか事前に決まっていないと、後から「支払いをめぐって揉める」「オーナーが泣き寝入りで負担する」といった問題につながりかねません。
- 次の入居者募集の遅れ: 上記のような手続きの難航や残置物放置の状況が続くと、部屋を原状回復できずに次の入居者を募集できません。空室期間が長期化し、その間の家賃収入が途絶えるリスクもあります。
こうした課題を受けて、国は解決策に乗り出しました。
国土交通省・法務省は、単身高齢者の居住の安定確保を図るため、令和3年6月7日(2021年)に「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)」を策定・公表しています。(※「残置物の処理等に関するモデル契約条項」に関しましては『「残置物の処理等に関するモデル契約条項」とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
このモデル契約条項は法的に義務付けられたものではなく任意の制度ですが、入居時にあらかじめ信頼できる第三者(受任者)を指定しておくことで、入居者の死亡後に賃貸借契約の解除や残置物処理がスムーズに進む仕組みを提供するものです。
結果として貸主・借主双方が安心して契約でき、高齢単身者の住宅確保を後押しすると期待されています。
モデル契約条項は、原則として単身高齢者(60歳以上)が賃貸住宅を借りる場面での利用を想定しています。
ただし、60歳未満の単身者であっても、推定相続人がいない/所在不明など、死亡時に連絡が取れる者を確保しにくい場合には、入居支援のために活用することも想定されています。
なお、賃貸人の不安感が生じにくい場面で利用すると、無効となる可能性があるため、個別事情に応じて検討が必要です。
またモデル契約条項では、従来は受任者として入居者の推定相続人(親族)が想定されていたところを、NPO等の居住支援法人や不動産管理会社といった第三者機関も受任者に指定できるようにしています。
これによって「身寄りがない」「頼れる親族がいない」入居者の場合でも、信頼できる受任者を確保しやすくなり、万一の際の手続きが円滑化されオーナー側の負担も軽減されます。
ただしオーナー自身は受任者になれない点に注意が必要です(利害関係の衝突を避け公正を期すための措置です)。
以上のように、残置物関係事務委託契約は、高齢単身入居者が増える中で顕在化したリスクに対応するために生まれた新しい仕組みです。
以下では、この契約の具体的な内容や締結方法、実際の手続きについて詳しく見ていきましょう。
課題と契約による解決策の比較
上述した従来の課題と、残置物関係事務委託契約を導入した場合の解決策を対比すると次のようになります。
| 課題(契約導入前) | 残置物関係事務委託契約による解決策(導入後) |
|---|---|
| 賃貸借契約の解除手続き 入居者が死亡した後、契約解除の手続きを誰が行うか不明で手間取る。 | 受任者があらかじめ委任されているため、入居者死亡後ただちに受任者が契約解除手続きを代理で実行できます。相続人が不明・不在の場合でもスムーズに契約終了できます。 |
| 相続人の捜索・連絡 相続人の所在確認や連絡に時間と労力がかかり、その間手続きが進まない。 | 受任者として親族以外(居住支援法人や管理会社等)も指定可能なため、身寄りがなくても対応可能です。相続人不明でも受任者がいれば所定の手続きを進められ、オーナーの対応負担が軽減します。 |
| 残置物の処分権限 残置物は故人や相続人の財産であり、オーナーは勝手に処分できないため対応が滞る。 | 受任者に残置物の整理・処分・送付の権限を委託する契約により、受任者が法的に問題ない形で残置物を片付けることができます。入居者の生前の合意に基づく処理なので法的リスクも抑えられます。 |
| 残置物処理費用の負担 処理費用の負担者が不明確だとトラブルになりやすい。 | 費用負担者を契約で明確化します。基本的に費用は入居者(相続人)が負担する旨を合意しておき、相続人不在時は敷金充当などの方法も取り決めます。これにより費用面の揉め事を防止できます。 |
| 空室期間の長期化 手続き完了まで次の入居者募集ができず、空室が長引いて家賃収入が途絶える恐れ。 | 残置物処理が迅速化するため原状回復までの時間が短縮され、早期に次の入居者募集が可能となります。結果として空室期間の短縮による経済的メリットが得られます。 |
このように、残置物関係事務委託契約(および関連する解除関係事務委任契約)を導入することで、従来オーナーや管理会社を悩ませていた問題の多くを事前に解決できる可能性があります。
国のモデル契約条項も、これらの責任や手続きを賃貸借契約に組み込む形で事前に明確化し、トラブルを未然に防ぎ迅速な対応を可能にすることを狙いとしています。
残置物関係事務委託契約の内容と仕組み
受任者に託される具体的な業務内容と契約の仕組み – 残置物関係事務委託契約では、入居者死亡等により賃貸借契約が終了した際、受任者がどのように残置物を処理するかについて詳細な取り決めを行います。
契約書には、受任者が物件内に立ち入り残置物を搬出・処分・保管できる権限や、その処理方法・手順、費用負担の扱いなどが定められます。
以下、この契約の主なポイントを見てみましょう。
契約のしくみと2種類の委任契約
前述のとおり、モデル契約条項では「解除関係事務委任契約」と「残置物関係事務委託契約」という2つの契約をセットで用いる形が想定されています。
解除関係事務委任契約は入居者死亡時に賃貸借契約の円滑な終了(解約手続き)を受任者に委ねる契約であり、残置物関係事務委託契約は賃貸借契約終了後に残置物の整理・処分を受任者に委ねる契約です。
モデル契約条項では、賃貸借契約の解除に関する部分は「委任契約」(解除の代理権付与)、残置物の処理に関する部分は「準委任契約」(残置物の搬出・廃棄等の事務委託)とされています。
契約締結にあたっては、賃貸借契約書に「入居者死亡時には受任者が契約解除・残置物処理を行う契約を別途締結済みである」旨の特約を盛り込んでおき、賃貸借契約と両契約が連動するようにしておきます。
残置物処理に関する主な取り決め事項
残置物関係事務委託契約の契約書には、受任者が具体的にどのように残置物を扱うかが細かく定められます。
主な取り決め事項は次のとおりです。
残置物の範囲と種類
契約書で「残置物」の定義を明示します。
一般的には賃貸借契約が終了した時点で部屋に残っている一切の動産類を指しますが、特に入居者が死亡した場合に残された遺品も含まれます。
契約では、入居者が「この品物は処分しないで特定の人に渡してほしい」と希望する物を「指定残置物」、それ以外の物品を「非指定残置物」と区別します。
入居者には生前に「指定残置物リスト」を作成してもらい、何をどのように扱ってほしいか意思表示しておいてもらうのが望ましいとされています。
例えば形見として残したい写真アルバムや、親族に引き渡したい貴重品などが指定残置物に該当します。
一方、指定されなかった家具・衣類・生活用品などは非指定残置物となり、こちらは基本的に処分(廃棄)対象となります。
モデル書式(残置物の処理等に関する準委任契約書)では、換価で得た金銭や室内に存した金銭は、委任事務終了後、遅滞なく相続人へ返還するものとされています。
なお、受任者は委任事務に要した費用を相続人に請求でき、換価金や室内金銭から費用を充当した上で残額を返還できる旨も定められています。
受任者の権限と処理方法
受任者は入居者死亡後、物件内に立ち入り残置物を搬出・整理する権限を持ちます。
契約に基づき、受任者は指定残置物については所定の送付先へ発送したり、適切に保管したりします。
非指定残置物については、受任者が責任をもって廃棄処分を行います。
モデル書式では、非指定残置物の廃棄等は、原則として「入居者(委任者)の死亡から3か月が経過し、かつ賃貸借契約が終了したとき」に行うとされています(期間「3か月」は契約で定めます)。
食品や生ゴミなど衛生上問題のあるものは即時廃棄し、逆に金品や貴重品はしかるべき方法で換価・供託することで法的な適正さを担保します。
これらの手続きを経て、最終的に室内の荷物がすべて片付き原状回復が完了したら、受任者はオーナーに明け渡しを行います。
処理費用と負担者の明確化
残置物の整理・処分・清掃には費用が伴うため、契約でその費用負担者を明確にしておくことが極めて重要です。
モデル契約条項では、処理費用は原則として入居者(=委任者)の負担と定めます。
具体的には、入居者が死亡した場合はその相続人が費用を支払い、相続人がいない・連絡不能の場合にはオーナーが一時立替えて敷金や残置物の換価代金から精算する方法を想定しています。
国交省の記載例では、相続人の有無・所在が不明で費用回収が難しい場合に備え、賃貸借契約の特約として「賃貸人が受任者の費用等を第三者弁済し、敷金と相殺する」条項を設けることが考えられるとされています。
こうした取り決めによって、「費用は誰が持つのか」が曖昧なために起こりがちな揉め事を防ぐ狙いがあります。
もっとも、敷金だけでは費用が賄えない可能性もあります。
そこで契約に付随して、万一費用が嵩んだ場合に一定額まで補償してくれるサービス(見守りサービスに付帯する保険や、賃貸保証会社の特約など)を利用することも検討されます。
例えば見守りサービスによっては残置物処理費用を最大50万円まで補償するプランが用意されているケースもあります。(参考:東京都文京区ホームページ『すまいる住宅登録事業』)
このように事前に費用面の備えを講じておけば、最悪の場合でもオーナーの経済的負担を最小限に抑えることができます。
受任者の選定と役割
受任者(代理人)は、入居者の「もしもの時」に備えて事務手続きを代行する重要な役割を担います。
受任者には入居者の意思を尊重し、その利益のために誠実に委任事務を処理する義務があります。
では具体的に誰が受任者になり得るのでしょうか?
モデル契約条項における受任者の候補としては、主に次のような例が挙げられています。
- 親族(推定相続人): 入居者の家族や親戚が受任者となるケースです。生前から信頼できる親族に頼んでおくことで、死亡後の手続きをスムーズに行えるようにします。
- 居住支援法人などの公益団体: 身寄りのない高齢者をサポートするNPO法人や地方公共団体等が受任者となるケースです。各自治体には住宅確保要配慮者(高齢者や障害者等)の入居支援を行う居住支援法人が登録されており、こうした法人が契約解除・残置物処理を引き受けることも可能です。
- 不動産管理会社: 賃貸物件の管理を行う会社自らが、追加サービスとして受任者業務を引き受けるケースもあります。日頃から物件管理を任されている管理会社であれば、入居者の生活状況も把握しやすく、信頼関係も築きやすいというメリットがあります。実際、管理会社自身が受任者となることを想定した契約書式も用意されています。
受任者を誰にするかは入居者とオーナー・管理会社で十分に話し合い、信頼性と実行力を考慮して決める必要があります。
身寄りのない入居者の場合は、自力で受任者を探すのが難しいこともあります。
その際には、不動産会社が地元の居住支援法人や福祉団体、信頼できる管理会社などを紹介して受任者候補とする支援を行うこともできます。
なお、令和7年10月1日から、居住支援法人の業務に「入居者からの委託に基づく残置物処理」が追加されており、その実施に当たっては国交省・法務省が策定したモデル契約条項を活用することとされています。(参考:国土交通省ホームページ『住宅セーフティネット制度 ~誰もが安心して暮らせる社会を目指して~』)
こうしたサポートにより、入居希望者にとっても「亡くなった後のことまで考えてくれている」と安心感を与えられ、契約のハードルが下がる効果も期待できます。
受任者の役割は、入居者の死後に契約解除手続きと残置物処理を速やかに遂行することに尽きます。
受任者は大家さん(オーナー)から訃報の連絡を受けたら、速やかに賃貸借契約の解約手続きを開始し(必要に応じて鍵の引き渡しや書類への署名代行等を行います)、並行して入居者が予め指定していた死亡時通知先へ連絡を行います。
その上で、前述の契約内容に従い残置物の仕分け・搬出・処理を進めていきます。
受任者自身が実作業を行わない場合でも、適切な専門業者(遺品整理業者や廃棄物収集運搬業者など)を手配し、法令に則った形で処理を完了させます。
以上のように、受任者は入居者とオーナー双方の橋渡し役となり、万が一の際に円滑・適法に手続きを進める要となる存在です。
契約時には受任者の氏名・連絡先を賃貸借契約書にも明記し、オーナーや管理会社がいざという時すぐ連絡・協力できる体制を整えておくことが大切です。
契約締結から残置物処理までの流れ
具体的な進め方とスケジュール – それでは、残置物関係事務委託契約をどのように導入し、入居者が亡くなった際に実際どのような流れで残置物処理が行われるのか、一般的な手順を確認してみましょう。
契約の締結(入居時の準備)
残置物関係事務委託契約は、多くの場合入居時(賃貸借契約の締結時)に同時に結ばれます。
物件のオーナーまたは管理会社は、単身高齢の入居希望者に対し、この契約制度の趣旨を説明し「万一の際の備え」として導入を提案します。
入居者が契約を了承したら、受任者となる人を選定します。
受任者に親族を指定する場合はその親族にも事前に承諾を得ておく必要がありますし、居住支援法人や管理会社を受任者にする場合はそこと個別に打ち合わせを行います。
受任者が決まったら、入居者(委任者)と受任者との間で2つの委任契約(解除関係事務委任契約と残置物関係事務委託契約)を締結します。
契約書式は国土交通省がモデルを公開しており、必要事項を記入して署名押印する形です。
賃貸借契約書には特約として「借主は〇年〇月〇日付で○○(受任者)との間に本物件に係る解除関係事務委任契約および残置物関係事務委託契約を締結した」旨を記載し、オーナーもそれを了承する形にしておきます。
また入居者には、自分が希望する指定残置物リストの作成を依頼します。
リストには「〇〇の置物(リビングの棚)→妹に送付」「〇〇のアルバム→処分しないで保管」等、具体的に品名・所在場所・希望する処理方法や送付先を記載してもらいます。
現物には付箋やシールを貼って識別できるようにしておくとさらに親切です。
高齢の入居者には負担になることもあるため、入居時や落ち着いた頃合いに管理会社が声がけして作成を手伝うなどの配慮も有効でしょう。
契約締結後も、入居期間中に受任者の連絡先が変わった場合や受任者を変更したい場合には契約を更新する必要があります。
その際はオーナーにも速やかに通知してもらうことを契約に明記しておきます。
入居者の死亡発生から契約解除まで
万一、入居者が孤独死などでお亡くなりになった場合、まず賃貸人(オーナー)または管理会社がその事実を知り次第、受任者へ連絡します。
「〇月〇日に入居者様が亡くなられたようです。契約に従い対応をお願いします」というように連絡を受けた受任者は、ただちに動き出します。
まず行うのが賃貸借契約の解除手続きです。
受任者はオーナーと協議の上、契約を合意解除する書面を取り交わしたり、鍵の引き渡しを行ったりといった処理を進めます。
この際、入居者が亡くなった事実を証明する書類(死亡診断書や警察の検死連絡書など)が必要になる場合もありますが、受任者が遺族や関係機関と連携して手配します。
受任者は同時並行で、入居者が契約時に指定していた死亡時通知先(例えば遠方の親戚や知人)へ連絡を行います。
「私○○(受任者)は○○様の契約に基づき代理人として対応しております。○○様がお亡くなりになった件でご通知差し上げました…」といった内容で、死亡の事実と自分が対応する旨を伝達します。
通知先が特に指定されていない場合、この手続きは省略されます。
賃貸借契約の解除手続き自体は受任者との合意解除により迅速に完了しますので、相続人の有無に関わらず部屋は契約上は早期に明け渡された状態になります。
ポイントは、契約解除が済んだ時点ではまだ残置物が部屋に残っているということです。
そこで次に、残置物の本格的な整理・処理に移ります。
残置物の整理・処分と明け渡し
受任者は物件に入り、契約時に作成された指定残置物リストに従って荷物を仕分けします。
リストに載っているもの(指定残置物)は処分せずに一時保管し、後日リストで指定された送り先(相続人や友人など)に梱包・発送します。
貴重品や思い出の品など入居者の意思で「残してほしい」とされたものは、このようにしかるべき形で大切に扱われます。
一方、リストにない非指定残置物(家具・家電・生活用品・衣類・雑貨・ゴミ類など)は、受任者の責任で処分します。
処分にあたっては、前述のとおり契約で定めた手順に沿って行われます。
多くの場合、専門の遺品整理業者や不用品回収業者に依頼し、大型家具や大量のごみも含めて一括して搬出・廃棄します。
この際、業者には一般廃棄物収集運搬業の許可があることを確認し、適正に処理します。リサイクル可能な家電や家具があればリユースに回すなど、環境や地域のルールに配慮した処理も行います。
室内の清掃・消毒が必要な場合も、あわせて専門業者に委託します。
特殊な例として、残置物の中に現金や有価証券が見つかることもあります。
その場合、契約の取り決めに従い、発見された現金・金券類は法務局に供託するか、相続人へ引き渡すまで受任者が適切に管理します。
貴金属や骨董品など価値のある品物は、受任者の判断で専門業者に買い取ってもらい換価し、その売却代金を処分費用に充当したり相続財産として保全したりします。
このようにして、残置物を単に捨てるのではなく、価値あるものは有効活用しつつ処理費用の補填にも役立てる工夫がなされます。
すべての残置物の処理が完了し、部屋が空になったら、受任者はオーナーに対して明け渡しを行います。
これは実務上は鍵の返却や、処理完了報告書の提出などの形で行われます。
処理にかかった費用については、あらかじめ取り決めたとおり敷金から精算したり、相続人に請求したりします。
相続人不在で敷金も不足する場合は、契約時に加入していた費用補償制度(もし利用していれば)から不足分を受領し、残りはオーナー負担となるケースもあります。
ただ、契約によって費用負担のルールが明示されているため、後から「誰が払うのか」で揉めることは避けられます。
こうした一連の処理が済めば、オーナー側は速やかに新たな入居者募集を開始できます。
残置物契約を導入していなかった場合には、相続人探索や法的手続きに何ヶ月も要していたであろうところを、大幅に期間短縮できる点が大きな利点です。
現にモデル契約条項では、契約解除後おおむね3ヶ月を経過すれば残置物を処分できる仕組みとされており、従来は一年近く空室になってしまうようなケースでも、数ヶ月程度で収束させられることが期待されています。
オーナー・管理会社にとっては、経済的損失と精神的負担を減らし、本来の賃貸経営に早く戻ることができる点で大変有益な制度といえるでしょう。
残置物契約導入のメリット
契約導入による安心と利便性 – 残置物関係事務委託契約をはじめとするモデル契約条項を導入することは、賃貸オーナーや管理会社に多くのメリットをもたらします。
最後に、主なメリットを整理してみます。
相続人トラブルや法的リスクの未然防止
契約によって「万一の際の荷物の扱い方や費用負担」について事前に明確なルールを定めておくことで、入居者の死後に想定される相続人とのトラブルを未然に防ぐことができます。
誰が何をどう処理するか、費用は誰が負担するかが契約で合意されているため、後から相続人が異議を唱えたり、処分を巡って争ったりする余地が少なくなります。
また、オーナーや管理会社が無断で残置物を処分して法的責任を問われるリスクも回避できます。
つまり、契約を交わしておくだけで「勝手に捨てて訴えられるかも…」という不安から解放され、安心して対応できるのです。
空室期間の短縮と収益安定
残置物処理がスムーズに進むことで、物件の原状回復と再募集までの時間を大幅に短縮できます。
従来は入居者が亡くなった後、相続手続きや荷物整理に長期間を要し、その間部屋が空いたままになることが少なくありませんでした。
モデル契約条項を活用すれば、早期に契約解除と荷物処理が完了し、次の入居者募集を迅速に開始できます。
結果として空室による家賃収入の途絶期間を最小限にでき、オーナーの収益安定に寄与します。
高齢者の入居を受け入れることが空室対策にもつながるといわれる所以は、まさにこのメリットによるものです。
オーナー・管理会社の安心感と業務負担軽減
「もしも入居者が孤独死してしまったら…」という最悪の事態にも備えができていることで、オーナーや管理会社は安心して賃貸経営・管理に専念することができます。
モデル契約条項の導入は、高齢者受け入れに対する心理的なハードルを下げ、物件オーナーにとっては賃貸経営上のリスクヘッジとなります。
「高齢の方に貸すのは不安だ」という理由で空室が埋まらない状況も減り、結果的に機会損失を防ぐことにもつながるでしょう。
また、管理会社の立場から見ても、残置物処理や相続人探しに煩わされる場面が減るため業務負担の軽減につながります。
法的に難しい対応を迫られたり、オーナーと相続人の板挟みになるようなストレスフルな状況を避けられるのは大きな利点です。
契約締結時の説明や調整に手間はかかりますが、それ以上に万一の際の労力を省けるメリットが上回ります。
さらに、不動産会社にとっては「当社は万一の孤独死にも備えています」とアピールできるため、高齢者の入居促進や他社との差別化にも役立つでしょう。
まとめ

近年策定された「残置物の処理等に関するモデル契約条項」は、超高齢社会における賃貸管理の新たなスタンダードになりつつあります。
この仕組みに基づく残置物関係事務委託契約を導入することで、高齢の単身入居者が亡くなった際に生じがちな契約解除や遺品整理のトラブルを事前に防ぎ、オーナー・管理会社双方に安心をもたらすことができます。
実際、従来は対応が難航していた問題(残置物の処理や費用負担、相続人不在時の対応など)に対して、契約で明確な方針を定めておくことで円滑な解決が可能となりました。
その結果、高齢者だからと入居を断られるケースが減り、単身高齢者の住宅確保にもつながるという社会的な意義も持っています。
賃貸物件のオーナーや管理会社にとって、「備えあれば憂いなし」という言葉どおり、残置物契約の整備はリスクマネジメントの観点から非常に有効です。
もちろん契約導入には入居者本人の理解と協力が欠かせませんが、安心・安全な賃貸運営のための win-winの取り決めであることを丁寧に説明すれば、多くの方に受け入れてもらえるでしょう。
「もしもの時」に慌てずに済むよう、そして入居者にも安心して暮らしてもらえるよう、ぜひ公式のモデル契約条項なども参照しつつ前向きに導入を検討してみてください。



