特殊清掃とは

最近、賃貸物件で入居者の「孤独死」などが発生し、特殊清掃を依頼しなければならないケースが増えています。

高齢化や単身世帯の増加により孤独死は年々増加しており、警察庁が2024年に初めて発表したデータによれば、2024年1~3月だけで全国約2万1,716人もの一人暮らしの方が自宅で亡くなっていることがわかりました。

こうした現場では通常の清掃では対処できない深刻な汚染や臭気が発生するため、不動産オーナーや管理会社は「特殊清掃」という専門サービスを利用して原状回復を図る必要があります。

本記事では、不動産オーナー・賃貸管理会社の方向けに「特殊清掃」についてわかりやすくご説明したいと思います。

特殊清掃の定義や通常の清掃との違い、作業内容、必要となるケース、発生時の初動対応、費用相場と負担者、保険でカバーできるか、さらに悪質業者を避けるポイントやトラブル事例まで、専門家の視点で丁寧に説明します。

「特殊清掃」とは?

特殊清掃とは、孤独死や事件・事故、自殺現場、ゴミ屋敷など、通常の清掃では対処できない特殊な現場を専門的な技術と薬剤を用いて清掃・消毒し、元の状態に原状回復させる作業のことです。

日常的なハウスクリーニングがホコリや生活汚れを落とす作業であるのに対し、特殊清掃では血液・体液などの生物汚染の除去や強烈な悪臭の消臭、病原菌の除菌、害虫駆除といった高度な作業が必要になります。

そのため、市販の洗剤や一般的な清掃スタッフでは太刀打ちできず、特殊な機材・薬剤専門的な知識・技術を持つプロの特殊清掃業者でなければ対応できません。

特殊清掃が求められる現場では、例えば遺体から漏れ出した体液や血液が床や壁に染み込み強烈な腐敗臭を放つほか、ウジ虫やハエなどの害虫が大量発生し、空気中に細菌やウイルスが蔓延することもあります。

こうした状況は放置すれば建物自体の損傷や二次被害につながるため、早急かつ的確な専門清掃が不可欠です。

参考

広義の「特殊清掃」には、孤独死現場などの清掃だけでなく火災や水害など災害現場の復旧や、ペット臭・タバコ臭といった強烈な臭いの消臭作業も含まれる場合があります。しかし一般には、人が亡くなった現場やゴミ屋敷の清掃を指すことがほとんどです。本記事でも主にそれらのケースを扱います。

「特殊清掃」と「通常の清掃」との主な違い

通常の清掃との主な違いをまとめると次のとおりです

扱う汚染の度合い

「特殊清掃」と「通常の清掃」では扱う汚染の度合いが桁違いに違います。

特殊清掃では遺体由来の血液・体液、長期間放置された生ゴミの腐敗汚染など、通常清掃では経験しない深刻な汚染源を除去します。

これらは強い悪臭や有害菌を伴い、市販薬剤では対応困難です。

専門的な薬剤・機材の使用

オゾン発生装置による強力な消臭作業や、特殊酵素・強力除菌剤の散布など、高度な消臭・除菌技術が要求されます。

また汚染物を除去する際は防護服や特殊工具を用い、安全に作業します。

害虫・有害物の駆除処理

遺体やゴミの腐敗に伴い発生したウジ虫・ハエなどの害虫駆除や、細菌・ウイルスの除去も重要な工程です。

感染症リスクもあるため、徹底した衛生管理下で作業します。

原状回復まで対応

清掃後、臭いの原因となる床板や壁紙が汚染されていれば解体撤去やリフォームも行います。

必要に応じて畳や床材を剥がして交換し、消臭コーティング施工まで実施して完全に臭いを封じ込めることもあります。

以上のように、特殊清掃は「素人では絶対にできない特別な清掃」です。

豊富な経験と高度な専門知識を持つ業者に任せることで、はじめて適切かつ安全に原状回復が可能となります。

特殊清掃が必要となる代表的なケース

特殊清掃が必要となる代表的なケース

特殊清掃の出番となるのは、具体的にどのような現場でしょうか。

不動産オーナーや管理会社が遭遇し得る典型的なケースを挙げ、その状況と特殊清掃が必要な理由を解説します。

【ケース1】孤独死・孤立死の現場

「孤独死」(孤立死)とは、高齢者などが一人暮らし中に誰にも看取られず亡くなり、長期間発見されないケースを指します。

近年この孤独死が社会問題化しており、特に賃貸住宅で入居者が孤独死してしまうとオーナー・管理会社に大きな影響が及びます。

発見までに数日~数ヶ月かかることも珍しくなく、その間に遺体は腐敗が進行して体液や腐敗臭が建物内部に広がります。

床下材や壁内部にまで体液が浸透し、ウジやハエが大量発生するなど、部屋は通常の生活空間とはかけ離れた深刻な汚染状態となります。

当然ながら通常の清掃では太刀打ちできず、専門薬剤を使った除菌・消臭や汚染箇所の解体が必要です。

実際、冬場でもエアコンや電気カーペットの影響で腐敗が進み、数日で遺体周辺が甚大に汚染された例もあります。

特殊清掃ではまず遺体痕跡(体液・血液)の除去・清拭を行い、強力な消毒剤で室内を隅々まで殺菌します。

その後、オゾン燻蒸などで徹底的に消臭し、床材や下地に臭気が染み込んでいればその部分を剥がして交換する、といった工程で原状回復を図ります。

孤独死現場の清掃は不動産オーナー・管理会社にとって避けて通れない課題です。

特に高齢単身の入居者が多い物件ではリスクも高いため、いざという時に備えて特殊清掃の知識は必須と言えるでしょう。

参考

孤独死の件数 – 東京23区では、65歳以上の一人暮らし高齢者の自宅での死亡者数が2011年の2,618人から2020年には4,239人へと増加しており、およそ10年で約1.6倍に増えています。
全国的にも孤独死は年々増加傾向にあり、決して他人事ではありません。早めに見守りサービスを導入したり、万一の際の保険加入を検討するオーナーも増えています。

【ケース2】事件・事故・自殺現場

入居者や関係者が事件に巻き込まれたり、室内で自殺・不慮の事故死をしてしまったケースも特殊清掃の対象です。

この場合、遺体は比較的早期に発見・搬出されることが多いものの、血液が床や壁に飛散したり、短時間でも体液が周囲に漏れることで汚染が発生します。

殺人事件等の現場では血痕が広範囲に残っていたり、場合によっては拳銃自殺で壁に生体組織が付着するような凄惨なケースもありえます。

警察の現場検証が終わった後、遺族や物件オーナーが清掃・原状回復を行わねばならない点は孤独死と同様です。

特殊清掃では血液などのバイオハザード除去から始め、臭気や細菌感染の不安が残らないよう強力な消毒剤で清拭・消毒します。

その後、孤独死の場合ほどの強い腐敗臭は無くとも、微かな血液臭や精神的な嫌悪感を払拭するためオゾン消臭などで徹底消臭を実施します。

必要に応じてクロス張替えや床補修も行い、事件・事故の痕跡を物理的に消し去ります。

特殊清掃のプロは、遺族のお気持ちに寄り添いながら作業を進めてくれます。

心理的にもつらい現場ですが、プロの手で清めてもらうことで部屋を再び生活できる空間へ蘇らせることが可能です。

【ケース3】ゴミ屋敷(ゴミ大量放置現場)

「ゴミ屋敷」とは、居住者が長年にわたり生活ゴミを溜め込み、部屋中がゴミで埋め尽くされた状態の住居です。

悪臭や害虫が発生し衛生が極度に悪化するため、こちらも特殊清掃が必要なケースと言えます。

実際、放置された生ゴミが腐敗して強烈な臭気を放ち、コバエやゴキブリが大発生している物件もしばしば報道されています。

ゴミ屋敷の清掃ではまず大量のゴミの分別・撤去が不可欠です。

特殊清掃業者は防護マスクと手袋を着用し、可燃・不燃・資源などに仕分けながら専門の廃棄物収集ルートでゴミを搬出します。

床が見える状態になったら、腐敗物で汚れた箇所を強力な洗剤や消毒剤で清掃・除菌し、部屋全体にこびりついた悪臭をオゾン発生装置等で分解・消臭します。

さらに害虫駆除も並行して行い、卵から成虫まで徹底的に駆除します。

ゴミ屋敷は近隣住民への悪臭被害や火災リスクも高いため、早期対応が肝心です。

特殊清掃によって衛生環境を回復させることで、再び安全に住める状態に戻すことができます。

賃貸物件で入居者がゴミ屋敷化させてしまった場合も、専門業者に相談すれば一般的には一日~数日できれいになります。

その他のケース

上記以外にも、以下のような現場で特殊清掃をおこなるケースがあります。

  • ペットの糞尿臭が酷い部屋:犬猫の多頭飼育崩壊で畳や床材に尿が染み込み、強烈なアンモニア臭が取れない場合、特殊清掃で消臭・消毒します。
  • 火災現場の煤汚れ・臭気除去:ボヤや火災で発生した煤や臭いは通常清掃では落ちにくく、特殊清掃で消臭剤・オゾンなどを駆使して除去します。
  • 水害・漏水による汚泥汚染:床下に染み込んだ汚水やカビも、特殊清掃の高圧洗浄・消毒技術で安全なレベルまで除去できます。

いずれも通常のハウスクリーニングの範囲を超えた高度な清掃・復旧作業が必要なケースです。

発生頻度は高くありませんが、万一こうした場面に直面した際には特殊清掃業者への依頼を検討しても良いと思います。

賃貸物件で孤独死が起きた場合の対応と原状回復の流れ

賃貸物件で孤独死が起きた場合の対応と原状回復の流れ

ここからは、不動産オーナーや賃貸管理会社の立場で、入居者の孤独死など特殊清掃が必要な事態が発生したときに取るべき具体的な対応と、清掃から原状回復までの流れを解説します。

突然の事態でも落ち着いて適切に対処できるよう、順を追って確認しておきましょう。

発見から特殊清掃開始までの初動対応

  1. 警察・関係機関への通報: 異臭や異変に気づいて室内で倒れている入居者を発見したら、まず警察(110番)や救急(119番)に連絡します。孤独死の場合、近隣からの異臭苦情で警察立会いの下で発見されるケースも多いでしょう。いずれにせよ、遺体の確認・搬出は警察の管轄となるため、オーナー自身で遺体を動かすことはせず速やかに通報します。
  2. 現場保全と遺族への連絡: 警察の検視等が終わった後、室内は遺族または物件管理者に引き渡されます。現場は下手に素人が動かすと汚染を拡大しかねないため、極力そのままの状態で保全しましょう。並行して、入居者の身元から判明する緊急連絡先(親族や連帯保証人)に連絡し、状況を伝えます。賃貸借契約では、通常の使用による経年劣化を除き、入居者の故意・過失などによって生じた汚損や破損については、入居者(および連帯保証人)に原状回復義務があるのが一般的です。孤独死のケースでは、汚損の程度や死因・過失の有無によって費用負担の扱いが変わるため、遺族と今後の対応(遺品整理や清掃費用負担の方針など)を丁寧に話し合う必要があります。
  3. 特殊清掃業者の手配: 遺族や保証人と連絡がつかない、または遺族から依頼してほしいと求められた場合など、オーナー側で特殊清掃業者を手配します。遺体搬出後すぐにでも臭気や腐敗の進行を食い止める必要があるため、早めの手配が肝心です。「特殊清掃 地域名」などで検索すると多数ヒットしますが、後述するポイントを参考に信頼できる業者を選定しましょう。見積りはできれば複数社から取り、作業内容と費用を比較検討すると安心です。
  4. 近隣住民への説明・配慮: 孤独死現場では臭気が漏れて近隣に迷惑をかけている可能性があります。発覚時点で近隣住民に事実関係を伝え、謝罪と状況説明をしておくとトラブル防止に有効です。特殊清掃作業中も、防護服姿の作業員が出入りするため、事前に掲示などで「専門業者による清掃作業」を周知し、驚かせないよう配慮しましょう。

特殊清掃の作業内容と原状回復のプロセス

特殊清掃業者が決まったら、いよいよ現場での清掃・原状回復作業が始まります。

ここでは典型的な特殊清掃の工程をご紹介します(状況により前後しますが、概ね以下のような流れです)。

  • 遺品の整理・搬出:まず室内に残された遺品や家具類のうち、遺族が形見分け等で必要とするものを選別します。その後、残りの家財道具や生活ゴミをまとめて搬出します(いわゆる遺品整理の工程)。貴重品は捜索・保管し、廃棄物は業者が適切に処分します。
  • 汚染箇所の特殊清掃:遺体があった場所や汚染の激しい箇所を中心に、血液・体液の拭き取り清掃を行います。床や家具に染み込んだ体液は専用酵素剤で分解・除去し、細菌繁殖を防ぐため強力な除菌剤で隅々まで消毒します。浴室で亡くなった場合は浴槽の特殊清掃も必要です。
  • 害虫駆除:腐敗に伴って湧いたウジ虫・ハエ、ゴキブリなどが発生していれば、殺虫剤の燻蒸や捕獲により徹底駆除します。卵が残っていると再発生するため、数日おきに繰り返し駆除するケースもあります。
  • 消臭作業(脱臭):特殊清掃の山場がこの消臭作業です。腐敗臭や体臭は非常に強烈で、壁や天井、床材に深く染み付いています。業者はオゾン発生装置を設置して何時間も稼働させ、臭気成分を化学分解します。また酵素系消臭剤や特殊な消臭液を空間や表面に散布し、臭いの原因を元から除去します。臭気は一度で消えない場合もあるため、数日間に分けて繰り返し脱臭作業を行い完全消臭を目指します。
  • 解体・撤去とリフォーム:床下や壁内部にまで汚染が及んでいる際は、床板や壁材の一部を解体撤去します。解体には建築業法上の許可が必要ですが、資格を持つ特殊清掃業者であれば対応可能です。汚染箇所を取り除いた後、新しい床材・クロスで補修して見た目も含めた原状回復を行います。
  • 最終チェックと消臭コーティング:作業完了後、臭いが残っていないか専門スタッフが入念に確認します。必要に応じて再度オゾン燻蒸を実施し、それでも取り切れない臭いが極微量でもあれば、特殊な消臭コーティング剤を施工して臭気を封じ込めることもあります。ここまで徹底すれば、翌日以降に室内へ入っても嫌な臭いを感じないレベルに仕上がります。

以上が特殊清掃~原状回復のおおまかな流れです。

作業完了後、業者から作業報告書や臭気測定データが提供される場合もあります。

室内が安全・清潔な状態に戻ったことを確認し、オーナーへ引き渡しとなります。

告知義務と再募集について

国土交通省のガイドラインでは、病気や老衰などの自然死・日常生活の中での不慮の事故については原則として告知不要とされていますが、長期間放置されて特殊清掃が必要になった自然死や、自殺・他殺・火災などの死亡事故については、概ね3年間は入居希望者へ説明することが望ましいとされています。
実際の対応は、死因や経過年数、地元の不動産慣行によっても異なるため、募集時には管理会社や仲介会社と方針を確認し、入居者に誠実な説明を行うことが重要です。

特殊清掃にかかる時間はどれくらい?

特殊清掃に要する日数・時間は現場の状況によって大きく異なります

汚染が軽度か重度か、間取りが狭いか広いかで作業量が変わるため一概には言えませんが、目安として次のようなケースがあります。

軽度な場合(早期発見・1R程度)

汚染箇所が限定的で臭いも比較的弱ければ、即日(数時間~半日)で完了することもあります。

例えばワンルームで死後1~2日で発見されたようなケースでは、清掃自体は数時間、消臭もその日のうちに完了できることがあります。

中程度の場合(数日経過・中規模間取り)

1LDK~3LDK程度の広さで死後数日~1週間経過していた場合、丸1日~2,3日の作業が必要です。

清掃と同時にオゾン消臭を行い、翌日に臭い再チェック・追加消臭を行う、といった形で複数日にまたがることがあります。

重度な場合(長期間経過・大規模物件)

発見までに数週間~数ヶ月かかったケースや戸建て・メゾネットなど広範囲に汚染が及んだケースでは、最長で1~2週間程度かかることもあります。

たとえば4LDKの住宅で死後2週間以上経過していたケースでは、作業自体に約6時間、さらに消臭作業に数日~1週間を要した例も報告されています。

特に時間を要するのは消臭作業と害虫駆除です。

臭いは見えないため完全に取れたか確認するのに慎重を期す必要があり、一見消えたように思えても根本原因を断たなければまた臭ってきます。

そのため、強力なオゾン燻蒸や薬剤散布を何度も繰り返し、日を置いて再チェックすることがあります。

害虫も一度で駆除しきれなかった卵が孵化するタイミングを見計らい、再度駆除することがあります。

以上のように、「早く終わらせたい」と思っても現場次第で日数は左右されます。

もしオーナー側の事情で「できるだけ早く原状回復して次の入居者を迎えたい」という場合でも、特殊清掃を焦って不十分に終わらせるのは禁物です。

臭いや菌が残ったままでは後々大きな問題になりますので、必要な作業には時間をかけてもらいましょう。

特殊清掃の費用相場と費用負担の考え方

特殊清掃にはどれくらいの費用がかかるのか、そしてその費用は誰が負担すべきなのか――オーナーにとって大きな関心事でしょう。

この章では特殊清掃の料金相場と、ケース別の費用負担のルールについて解説します。

あわせて、火災保険や孤独死保険で費用をまかなえる可能性についても触れます。

特殊清掃の費用相場

特殊清掃の料金は現場の状況によって千差万別で、一律に○円とは提示しづらいものです。

汚染の程度、作業範囲、作業人数・日数によって変動するため、同じ間取りでもケースによって費用が大きく異なります。

そのため業者のホームページでも「○○円~」と最低料金しか載せていない場合が多く、依頼者側として「相場がわかりにくい」と感じることも少なくありません。

とはいえ目安が無いと不安でしょうから、ここでは特殊清掃の大まかな費用レンジを示します。

下表はある専門業者が提示する間取り別の料金目安です(汚染状況により変動)。

実際の見積り額はこれを上下する可能性がありますが、参考基準としてご覧ください。

間取り特殊清掃料金の目安作業時間(目安)作業人数(目安)
1R・1K約5万~10万円程度1~3時間程度1~2名
1LDK~3LDK約7万~30万円程度4~8時間程度3~6名
4LDK以上約22万~60万円程度6~12時間程度4~10名

※上記はあくまで清掃作業の費用目安です。汚染が極めて酷い場合や特殊な追加作業が必要な場合、100万円以上に及ぶケースもあります。逆に汚染が軽微で消臭も短時間で済む場合は5万円以下で済むこともあります。

費用は基本的に作業内容と作業量(人件費)で決まります。

一例として、特殊清掃の内訳モデルを見ると以下のようになります。

  • 遺体痕跡の清掃費(床上特殊清掃): 3.3万円~
  • 浴室など水場の清掃費: 3.3万円~
  • 消臭剤・除菌剤の散布: 1.1万円~
  • オゾン消臭作業費: 3.3万円~
  • 人件費: 2.2万円/人~(人数・日数分)

例えば「1Kで遺体発見遅れあり、腐敗臭強く床下浸透あり」のケースでは、遺体痕跡清掃3.3万 + オゾン消臭3.3万 + 消毒剤散布1.1万 + 作業員2名分4.4万 = 計12万円程度+廃棄物処理費…というように積算されます(あくまで概算イメージです)。

実際には現場を見ないと正確な費用算出は困難であり、優良業者であれば現地見積りの際に作業項目ごとに細かく説明してくれるでしょう。

特殊清掃費用を安く抑えるポイントとしては、汚染が軽いうちに対処する(早期発見・早期清掃)ことが第一ですが、オーナー側の努力で限界がある部分でもあります。

むしろ複数業者から相見積もりを取ることで、適正価格を見極め高すぎる請求を避けることが大切です。

極端に安すぎる見積りは逆に手抜き作業の恐れがありますが、適正な範囲で競争させることで相場に近い金額に落ち着くはずです。

後述の「業者選びのポイント」も参考に、納得できる料金で依頼しましょう。

費用は誰が負担する?遺族・保証人・オーナーの責任範囲

賃貸物件で孤独死や事故死が発生した場合、特殊清掃や原状回復の費用負担は基本的なルールがあります。

原則を理解した上で、実際の負担例を見てみましょう。

原則的な費用負担ルール

賃借人(入居者)が亡くなった場合、特殊清掃費用や原状回復費用は、賃貸借契約上の債務や損害賠償債務として「故人の負債(マイナスの遺産)」に含まれると解されるのが一般的です。

相続人が相続を承認した場合、その範囲で清掃費用や原状回復費用の請求を受ける可能性があります。

連帯保証人がいる場合も、契約内容によっては保証人に請求できるケースがあります。

しかし現実には、故人に十分な資産が残されていないことも多く、その場合ご遺族は負担しきれない費用を避けるため相続放棄を選択するケースがあります。

相続放棄とは、「故人の財産も負債も一切引き継がない」と家庭裁判所に申述する手続きです。

相続放棄が受理されると、原則として「相続人として」特殊清掃費用や原状回復費用を支払う義務は負わなくなります。

ただし、賃貸契約の連帯保証人になっている方は、相続放棄をしても保証人としての責任が残るとされており、契約内容によっては清掃費等の請求を受ける可能性があります。

また、相続財産の保存行為として最低限の管理義務が残る点にも注意が必要です。

その上で、最終的に誰にも請求できない場合はオーナーが負担せざるを得ない状況になります。

相続人が費用負担できない場合、最終的にどうなるか?

この場合、実質的にオーナー(大家)が費用を負担せざるを得ないのが現実です。

法律上オーナーに支払い義務が課せられているわけではありませんが、清掃や修繕をしない限り部屋を再度貸し出すこともできませんし、放置すれば悪臭や害虫が広がり近隣にも迷惑がかかります。

物件価値の下落も避けられません。

したがって費用が誰からも出ないなら、オーナーが泣く泣く自腹で特殊清掃・リフォーム代を支払ってでも早急に対応するしかない、というのが一般的な対応です。

賃貸契約時に加入する家賃保証会社との契約によっては、保証会社が孤独死発生時の原状回復費用を一定額まで負担してくれる場合もあります。

ただし保証の範囲は契約次第で、一般的な家賃保証契約では清掃費用まではカバーしないことが多いです。

以上をまとめると、費用負担の優先順位は:

  1. 故人の遺産から捻出(相続人が支払い)
  2. 連帯保証人が支払い(契約内容に基づき)
  3. 上記で不足・不在の場合、オーナーが実費負担

という形になります。

孤独死事故は入居者側に過失があるわけではないため、原則的に賠償責任は問えず、オーナー側も泣き寝入りとなるケースが多いのが実情です。

こうしたリスクを軽減する手段として、近年注目されているのが「孤独死保険」(後述)です。

加えて日頃から高齢入居者への見守り強化や、孤独死が起きた際の専門業者との提携を用意しておくなど、オーナーができる備えも検討しておきましょう。

火災保険や孤独死保険で特殊清掃費用はカバーできる?

特殊清掃にかかる高額費用を補償してくれる保険があれば心強いですが、実際のところ火災保険や近年登場した孤独死対応保険でどこまでカバーできるのかを解説します。

1. 火災保険の場合

賃貸物件オーナー向け・入居者向け問わず、多くの火災保険には火災以外に破裂・爆発、水漏れ、汚損・破損といった偶発的な事故への補償が含まれています。

実はこの「汚損・破損」補償の範囲に、ケースによっては孤独死現場の特殊清掃費用が該当することがあります。

例えば入居者が部屋で亡くなり遺体の腐敗によって室内に著しい汚れ・臭気被害が発生した場合、それ自体が事故による物件の損害とみなされ、火災保険金で清掃費用が支払われる場合もあります。

ただし火災保険で必ず出るとは限らず、保険会社や契約内容によって異なる点に注意が必要です。

保険金請求には通常、保険証券・請求書・見積書・死亡診断書・警察の報告書など複数の書類提出が求められます。

対応可否もケースバイケースなので、まずは加入中の火災保険の約款を確認し、孤独死などによる汚染が補償対象になっているかチェックしましょう。

また請求手続きが複雑な場合もあるため、必要に応じて保険会社に事前相談するとスムーズです。

2. 孤独死保険(特殊清掃保険)の場合

最近では「孤独死保険」あるいは「孤独死対応保険」と呼ばれる商品が登場しています。

これは特殊清掃費用や原状回復費用、家賃損失など孤独死発生によるオーナー側の経済的損失を補償してくれる保険です。

大きく分けて「家主型」と「入居者型」の2種類があります。

家主型孤独死保険(オーナー向け)

オーナーや管理会社自身が加入するタイプの保険で、物件で孤独死・自殺が起きた際に原状回復費用(特殊清掃費用+リフォーム費用)や遺品整理費用、さらに一定期間の家賃損失まで補償する商品です。

家賃保証は商品によりますが半年~1年分程度が目安で、補償金額はトータルで50万~100万円程度に設定されていることが多いようです。

オーナー型は一棟単位または所有物件全体で加入する必要があり、部屋ごとにピンポイント加入はできません(「最低〇室以上」など加入条件あり)。

保険料はオーナー負担ですが、万一の際に家賃収入までカバーできるメリットは大きいです。

入居者型孤独死保険(入居者向け特約)

こちらは入居者やその遺族が加入するタイプで、通常の火災保険・家財保険に特約として付帯する形で契約します。

内容は特殊清掃費用や原状回復費用の補償が中心で、賃貸人(オーナー)に対する損害賠償責任保険的な意味合いがあります。

入居中に孤独死や自殺で部屋に損害を与えた場合、この保険から清掃・修繕費用が支払われ、遺族の負担を軽減するとともにオーナーにも直接補償金が支払われる仕組みです。

家賃保証は含まれないため空室損失は補償されませんが、入居者側が保険料を支払うのでオーナー負担はありません。

実質的にオーナーは費用負担ゼロで清掃費用だけ救済される形です。

両者を比較すると、「オーナー型(自身で保険料負担)だが家賃保証まであり手厚い」か「入居者型(保険料負担なし)だが家賃保証はない」といった違いがあります。

たとえば高齢単身の入居者が多いオーナーなら、家主型に加入してリスクヘッジするのも有効でしょう。

逆にそこまで費用をかけられない場合は、入居者に火災保険の孤独死特約への加入を義務付ける(または保証会社のプランに組み込む)ことで備える手もあります。

なお、これら保険に加入していても業者選びは慎重にする必要があります。

保険が出るからと安易に安い業者に頼んだ結果、想定以上に費用がかさんで保険金だけでは足りなかったり、保険申請に必要な書類をきちんと発行してもらえなかったりするトラブルも報告されています。

保険金の範囲で適切に収まるよう、信頼できる業者に適正価格で発注することが大切です。

◆孤独死保険の家主型と入居者型の比較まとめ

保険タイプ家主型(オーナー加入)入居者型(入居者加入の特約)
主な補償内容特殊清掃費用・原状回復費用、家賃損失補償(6ヶ月~1年)など特殊清掃費用・原状回復費用(賠償責任として補償)。家賃保証なし
保険料負担オーナー(物件単位で契約)入居者またはその遺族(火災保険に付帯)
メリット家賃収入減のリスクもカバー。空室期間の損失補填が受けられる。オーナーは保険料負担なし。清掃・修繕費用が直接保険から支払われる(遺族の負担軽減)。
デメリット保険料コストがかかる。1室ごとの加入不可(複数戸まとめて加入)。家賃損失は補償されない。入居者側に保険加入を促す必要がある。

孤独死保険はまだ認知度が高くないかもしれませんが、高齢入居者を多数抱える大家さんには特に加入が増えています。

物件の状況とリスク許容度に応じて、最適な商品を選びましょう。

悪質業者を避ける!特殊清掃業者の選び方と注意点

孤独死や事故物件の発生でただでさえショックを受けている中、さらに追い打ちとなるのが悪質な特殊清掃業者によるトラブルです。

特殊清掃業界は残念ながら玉石混交で、中には「清掃技術が未熟」「消臭が不完全」「法外な料金を請求」といった悪徳業者も存在します。

ここでは信頼できる業者を選ぶためのチェックポイントを紹介します。

特殊清掃業者選び・3つのチェックポイント

特殊清掃を依頼する際、以下の点を事前に確認すると優良業者を見極める助けになります。

【ポイント1】豊富な経験と専門資格の有無

特殊清掃の実績が豊富な業者かを調べましょう。

実績が多いほど様々な現場に対応したノウハウがあり、特に消臭技術の差となって現れます。

「事故現場特殊清掃士」など関連資格を有している業者も望ましいです。

資格自体は必須ではありませんが、勉強と研鑽を積んでいる証拠になります。

業者サイトの実績紹介やスタッフ紹介、口コミ等で確認しましょう。

【ポイント2】見積もり内容の明確さ・適正さ

提示された見積書の内訳が明瞭で理解できるかチェックします。

「消臭剤一式:10万円」など曖昧な書き方ではなく、薬剤名や作業項目ごとに数量・単価が記載されているかがポイントです。

悪質業者はわざと専門用語だらけにして素人に分からないようにしたり、不必要な項目を盛って高額請求する場合があります。

また追加料金発生の条件についても事前に質問し、不明瞭な答えしか返ってこない業者は避けましょう(作業後になって「想定よりひどかったから追加〇万円」などと言い出すケースがあります)。

【ポイント3】相見積もりの実施

必ず複数社から見積もりを取ることを強く推奨します。

1社だけだとそれが高いのか安いのか判断できません。複数社に同じ現場状況を伝えて見積もりを依頼し、その金額と内容を比較検討しましょう。

競合他社がいると思えば業者も適正価格を提示しやすくなり、結果として相場に近い妥当な金額に落ち着くはずです。

注意点として、極端に安すぎる見積もりを出してきた業者はかえって警戒してください。

特殊清掃は手間と技術がかかる作業なので、安すぎる裏には「手抜き作業」「無資格アルバイト任せ」などのリスクが潜んでいます。

作業後すぐはきれいになったように見えても、数日後に悪臭が再発したという例もあり、結局別の業者に頼み直す羽目になりかねません。適正価格と作業品質のバランスが取れた業者を選ぶことが大切です。

相談しながら慎重に進めましょう。

まとめ

まとめ

孤独死や事件が起きた物件の原状回復は、不動産オーナー・管理会社にとって大きな試練ですが、特殊清掃というプロの力を借りれば適切に解決することができます。

本記事で解説したポイントを振り返り、最後に重要事項をまとめます。

  • 特殊清掃の基本: 孤独死・事故死現場やゴミ屋敷など、通常清掃では対応不能な特殊な汚染現場を専門技術で清掃・消臭・除菌し、原状回復するサービスです。通常の清掃との違いは、血液・体液や強烈な悪臭、害虫・病原菌など高度で危険な汚染を扱う点にあります。特殊な薬剤・機材と熟練の技術が必要で、素人では対処できません
  • 特殊清掃が必要なケース: 賃貸物件で入居者の孤独死が発生した場合や、室内で事故・自殺があった場合、あるいはゴミ屋敷化してしまった場合などが典型例です。特に孤独死は高齢化で増加傾向にあり、一人暮らしの方が亡くなると死後数日で腐敗が進み体液が建物を汚染し、強烈な悪臭と害虫発生を招きます。こうした現場では速やかに特殊清掃を依頼しないと、建物の価値低下や近隣被害につながります。
  • 発生時の初動対応: 入居者が死亡しているのを発見したら、まず警察に通報し、その後オーナーとして遺族・保証人に連絡を取ります。遺族と相談のうえ、早急に特殊清掃業者を手配しましょう。現場は下手に触らず保全し、臭気や虫が広がらないよう迅速な清掃開始が重要です。近隣への説明も忘れずに行い、トラブル防止に努めます。
  • 特殊清掃の作業内容: 遺品整理(残置物撤去)から始まり、汚染箇所の清掃・除菌、害虫駆除、消臭、必要に応じた解体撤去とリフォームという流れで原状回復します。特に徹底した消臭隠れた汚染源の除去が肝となります。一部でも臭いや汚染が残ると後から問題になるため、プロが数日かけてでも完全に処理します。
  • 作業日数の目安: 軽微な汚染なら半日~1日で終了するケースもありますが、重度の場合は数日~1週間以上かかることもあります。特に臭いの分解や害虫駆除は一度で終わらず複数回実施が必要になるため、焦らず十分な日数を確保することが成功の秘訣です。
  • 費用相場: 特殊清掃の費用は数万円~数十万円が一つの目安で、間取りや汚染度によって大きく上下します。ワンルーム程度なら5~10万円前後、広い物件や汚染が酷い場合は30~60万円ほどかかる例もありますalbalink.co.jp。ごく稀に100万円超となるケースもありますが、それ相応の大規模作業時です。実際の金額は現場見積りで確認するしかありませんが、複数の見積比較で適正価格を把握することが大事です。
  • 費用負担者: 賃貸物件の場合、特殊清掃費用は原則故人の相続財産から支出し、遺族(相続人)が負担します。しかし故人に資産が無かったり遺族が相続放棄した場合、結果的にオーナーが負担するケースが多々あります。保証人がいれば保証契約範囲で請求できる可能性もありますが、道義的・実務的にはオーナー側で立て替えて対処することがほとんどです。
  • 保険でのカバー: 火災保険の汚損補償で特殊清掃費用が支払われた例がありますが、契約内容次第なので必ず出るとは限りません。孤独死発生時に備えた孤独死保険(家主向け/入居者向け)も登場しており、前者は原状回復費用や家賃損失まで補償、後者は清掃・修繕費用を補償する特約です。物件の状況に応じて加入を検討することで、最悪の場合の経済的ダメージを軽減できます。
  • 業者選びと注意点: 特殊清掃は業者の力量差が大きいため、信頼できる専門業者を選ぶことが重要です。経験豊富で実績があり、見積もり明細が明確な業者を選びましょう。複数社から見積もりを取り比較することも必須です。悪質業者にありがちな「極端な低価格」「不明瞭な追加料金」「消臭不完全」などの手口に注意し、納得できる業者に依頼してください。作業後に臭いが残らないことを保証してくれる業者だとなお安心です。

不幸にも物件で孤独死や事故が起きてしまった際は、精神的なショックも大きいかと思います。

しかし本記事の内容を思い出していただければ、「何をすべきか」「どこに頼めばいいか」が見えてくるはずです。

特殊清掃のプロに任せれば、時間はかかっても必ず原状回復できます。

埼玉県の特殊清掃に関しては株式会社サンクルにお気軽にお問い合わせください。

埼玉県の物件を扱われている不動産会社様

株式会社サンクルでは、埼玉県の家屋の残置物撤去をおこなっております。
残置物の中で買い取れるものがある場合、買取専門のバイヤーがお見積りいたします。
また、草刈りなど残置物撤去以外に空き家や売却物件に必要な作業も承っております。