空き家を放置し続けた場合の「3つのリスク」

全国的に少子高齢化や人口減少の進行など、社会情勢の変化等に伴い、空き家が増加傾向にあります。

空き家の増加に伴って、行政への空き家に関する相談も年々増えています。

空き家の所有者等(所有者又は管理者)は、空き家を適切に管理する責任があります。

周辺の生活環境に悪影響を及ぼすような近隣同士の問題は、たとえそれが空き家であったとしても、当事者間で解決する必要があります。

本記事では、空き家を放置した場合に考えられる3つのリスクをわかりやすくご説明したいと思います。

【リスク1】近隣への迷惑

適切に管理されず放置された空き家は倒壊、害虫、ごみの不法投棄、不法侵入、草木の越境など、所有者やその家族だけでなく、近隣地域全体に大きなデメリットをもたらします。

具体的にどのような近隣への迷惑がおこりうるのかをご説明したいと思います。

空き家でおこる問題
政府広報オンライン:空き家の活用や適切な管理などに向けた対策が強化。トラブルになる前に対応を!

【近隣への迷惑1】倒壊・屋根や外壁の落下の危険

建物の老朽化や自然災害によって、空き家が倒れたり、構造物が破損したりして、近隣の住民に迷惑をかける危険があります。

老朽化による危険

  • 建物の老朽化: 柱や梁などの構造部材が経年劣化により腐食したり、シロアリ被害を受けたりすると、建物の強度が低下し、倒壊しやすくなります。
  • 屋根の老朽化: 瓦やスレートなどの屋根材が劣化すると、強風や地震で破損し、落下する危険性があります。

自然災害による危険

  • 地震: 大きな地震が発生すると、耐震性の低い空き家は倒壊する可能性があります。また、瓦や外壁材が落下する危険性もあります。
  • 台風・強風: 台風や強風により、老朽化した屋根材や外壁材が剥がれ落ちたり、飛散したりする可能性があります。
  • 大雨・豪雪: 長期間の大雨や豪雪により、屋根や外壁に負担がかかり、倒壊や破損につながる可能性があります。

建物が倒れたり、瓦が落下するなどにより、近隣の家屋や通行人等に被害が及んだ場合、その建物の所有者等は損害賠償など管理責任を問われます。

空き家の損壊に関する行政への質問

以下に、空き家の損壊に関して、行政に寄せられた質問の事例をご紹介します。

困った質問

隣の空き家の傾きや落下物などにより自宅等が被害に遭いました(被害を受ける危険があります)。どこに相談すればよいですか?

回答

所有者等がわかる場合は、直接所有者等に連絡してください。

わからない場合は、管理不全の状態にある空き家として、市町村の担当課へご相談ください。

空き家の所有者等に対して、自宅等が現に侵害を受けている場合には「妨害排除請求」、侵害を受ける可能性がある場合には「妨害予防請求」を行うことができます。

詳しくは、弁護士にご相談ください。

埼玉県川口市ホームページ:Q&A 空き家の近隣の方へ

【近隣への迷惑2】草木の越境

隣家に越境しやすい草木

所有している空き家と隣の家との境界を越えて木の枝が伸びて、近隣の住民に迷惑をかける危険があります。

特に以下のような草木が越境してしまう可能性があります。

草木の越境に関しましては『空き家の所有者は注意!「隣家に越境しやすい草木」を解説します』で詳しくご説明していますので、是非ご参照ください。

成長が早い樹木

竹

ポプラ、ユーカリ、竹、キリなど

これらの樹木は放置すると数年で大きく成長し、枝葉が境界を越えやすくなります。

特に竹は成長が非常に早く、地下茎で繁殖するため、放置すると境界を越えて隣家へ侵入し、駆除が困難になることがあります。

横へ広がる樹木

カエデ

シダレヤナギ、カエデ、ツツジなど

これらの樹木は枝が横に広がりやすく、境界を越えてしまう可能性があります。

つる性植物

つる性植物

ヘチマ、アサガオ、ヤブガラシ、クズなど

つる性植物は、他の植物やフェンスなどに絡みつきながら成長するため、境界を越えて隣家へ侵入しやすくなります。

地下茎で繁殖する植物

ドクダミ

ドクダミ、スギナ、ミョウガ、タケニグサ、竹など

これらの植物は地下茎を伸ばして繁殖するため、地上部が境界内にあっても、地下茎が隣家へ侵入し、そこから芽が出て越境することがあります。

背の高い草

セイタカアワダチソウ

セイタカアワダチソウ、ススキなど

これらの草は背が高くなりやすく、種子が風で飛散して隣家で繁殖する可能性があります。

草木の越境に関する行政への質問

以下に、草木の越境に関して、行政に寄せられた質問の事例をご紹介します。

隣の空き家の樹木の枝が越境して困っているのですが、どうすればよいですか?

樹木の越境については、基本的には民事(相隣関係)の問題ですので、市で伐採することはできません。

民法第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)第1項には、「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。」とあります。

雑草やツタの繁茂についても、所有者等が手入れをすることになりますので、市で刈り取ることはできません。

また、自分の敷地内であっても、他人の敷地から越境している枝や葉を勝手に伐採することは、民法上できません。

ただし、隣家の木の根が敷地内に越境している場合、越境している根の部分については、切り取ることが可能です(民法第233条第2項)。

所有者等がわかる場合には、当人に連絡をし、越境してきている部分を切除するようにお願いしてください。

所有者に枝の切除をお願いしても、これに応じてもらえない場合は、所有者に対して訴訟を提起して、所有者の費用で枝を切除するよう請求することになります(民法第414条第2項)。

詳しくは、弁護士にご相談ください。

埼玉県川口市ホームページ:Q&A 空き家の近隣の方へ

【民法改正】越境した竹木の枝の切取りルールの変更

隣の土地から越境した木や草の切取りに関するルールが改正されました。

これまでは、隣の土地から境界を越えて竹木の枝が伸びてきた場合、自分で切り取ることはできず、その竹木の所有者に切ってもらうか、訴えを起こして切除を命ずる判決を得て強制執行の手続きをとる必要がありました。

令和5年4月1日の民法改正により、越境された土地の所有者は、竹木の所有者に枝を切り取らせる必要があるという原則を維持しつつ、次のいずれかの場合には、枝を自ら切り取ることができるようになりました(改正後の民法233条3項1号~3号)。

  • 竹木の所有者に越境した枝を切除するよう勧告したが、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき
  • 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき
  • 急迫の事情があるとき

越境した竹木の枝の切取りについて(法務省資料) [PDFファイル/306KB]

【近隣への迷惑3】ごみの不法投棄

ごみの不法投棄

空き家に不法投棄されるゴミは、景観を損ねる、悪臭や害虫の発生、火災の原因となるなど、周辺環境に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、危険物の不法投棄は、人命に関わる重大な事故につながる可能性もあります。

空き家には、以下のようなものが不法投棄される可能性があります。

  • 家庭ごみ:生ごみ、食べ残し、ペットボトル、空き缶、ビン、紙くず、プラスチック製品、衣類、布団など、一般家庭から排出されるゴミ
  • 粗大ごみ:家具、家電製品(テレビ、冷蔵庫、洗濯機など)、自転車、タイヤ、カーペット、マットレスなど、収集日に出せない大型のゴミ
  • 事業系ごみ:廃材、建設廃材、産業廃棄物、農薬や肥料の空容器、廃油など、事業活動に伴って排出されるゴミ
  • その他:危険物(薬品、塗料、バッテリーなど)、動物の死骸など

不法投棄されやすい空き家の特徴と不法投棄の予防策に関しましては『不法投棄されやすい空き家の5つの特徴』で詳しくご説明していますので、是非ご参照ください。

【近隣への迷惑4】不法侵入

不法侵入

家財道具、家電製品、貴重品などが盗まれる可能性があります。

空き家の盗難に関するニュース

その他不法侵入されることで以下のようなリスクがあります。

  • 盗難
  • 破壊
  • 放火
  • 不法占拠
  • 近隣への迷惑
  • 犯罪の拠点
  • 所有者責任

空き家に不法侵入された場合のリスクに関しては『空き家に不法侵入された時の「7つのリスク」と「3つの対策」』で詳しくご説明していますので、是非ご参照ください。

【近隣への迷惑5】ねずみや害虫などの大量発生

ねずみや害虫などの大量発生

放置された空き家は、窓やドアの隙間、屋根や壁の破損などが発生しやすく、そこから害虫や害獣が容易に侵入できるようになります。

空き家には人の出入りがないため、侵入した害虫や害獣がそのまま住み着きやすいと言えます。

食べ残しや生ゴミ、ペットフード、髪の毛、フケ、衣類などが掃除されていない場合は、ネズミやゴキブリ、ハエなどの害虫にとって格好の餌となります。

また、新聞紙や段ボール、衣類などはネズミの巣作りの材料になります。

ねずみや害虫などの大量発生すると、建物や家財の破損による資産価値の低下やねずみの糞尿の悪臭による近隣住民の生活環境への悪影響などを及ぼす可能性があります。

ねずみや害虫などの発生リスクと対策に関しては『空き家でのねずみや害虫発生の予防策と発生した場合の対処法』で詳しくご説明していますので、是非ご参照ください。

【リスク2】罰則をうける可能性

所有している倒壊の危険性がある空き家を放置し続けることで、罰則を受ける可能性があります。

どのような空き家が罰則を受ける可能性があるのか、また、どのような罰則を受ける可能性があるのかをご説明したいと思います。

特定空家とは

特定空き家

特定空家とは、「倒壊の危険性、衛生上の問題、景観の悪化、周辺環境への悪影響など、放置することで様々な問題を引き起こす可能性がある空き家」です。

これらの問題を放置すると、近隣住民の生活環境を損ない、地域社会全体の安全や安心を脅かすことになります。

そのため、特定空き家の所有者には、その状態を改善するための適切な措置を講じる義務があります。

この義務を怠り、特定空き家を放置した場合には、「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づいて、最大で50万円以下の罰金が科される可能性があります。

また、特定空き家に対する措置命令に従わない場合や、行政代執行によって発生した費用の支払いを拒否した場合にも、罰則が科される可能性があります。

所有者には、特定空き家に関する情報を市区町村に報告する義務があります。

報告を怠った場合も、罰則が科せられる可能性があります。

特定空き家の所有者として、責任を持って適切な管理を行い、罰則を受けることのないよう注意が必要です。

罰則を受けるまでの流れ

崩壊しそうな空家を放置していたら、即罰則を受けるわけではありません。

特定空き家の罰則が科せられるまでの流れは、おおむね以下のようになります。(※以下の流れは、あくまでも一般的なものです。市区町村によって、具体的な手続きや期間が異なる場合があります。)

特定空き家への指定

市区町村が、倒壊や衛生、景観、治安などの問題を引き起こす可能性がある空き家を調査します。

所有者への聞き取りや現地調査などを経て、問題があると判断された空き家は「特定空き家」に指定されます。

所有者には、特定空き家である旨が通知されます。

【段階1】助言・指導

市町村長が、特定空き家の所有者等へ、周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置を取るよう、所有者自らの意思で改善するよう促す「助言」や「指導」をおこないます。

行政の「助言・指導」は、所有者の自主的な協力を促すもので、法的拘束力はありません。

助言又は指導は、特定空家等の所有者に対して行われる行政指導の中でも、比較的初期段階の軽いものです。

助言又は指導の具体的な内容

助言又は指導の具体的な内容としては、以下のようなものが考えられます。

  • 除却:特定空家等が倒壊の危険性があるなど、安全上問題がある場合、その建物の取り壊しを促す。
  • 修繕:特定空家等が破損しているなど、景観上問題がある場合、その建物の補修を促す。
  • 立木竹の伐採:特定空家等の敷地内の樹木が隣家へ越境するなど、周辺に悪影響を与えている場合、その伐採を促す。
  • その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置:上記のほか、特定空家等に起因する害虫・害獣の駆除、ゴミの撤去などを促す。

【段階2】勧告

助言・指導に従わず、特定空き家の状態が改善されない場合、市区町村は所有者に対して、より強い措置を求める「勧告」を行います。

勧告とは、特定空き家の所有者に対して、市区町村長が特定空き家の状態を改善するために必要な措置を講じるよう、より強く促すための行政指導です。

勧告も助言や指導と同じように法的拘束力はありません

勧告は書面で行われ、以下の内容が含まれます。

  • 特定空き家の状態:具体的にどのような問題点があるのかが記載されます。(例:倒壊の危険性、衛生上の問題、景観の悪化など)
  • 必要な措置:所有者が講じるべき具体的な措置が記載されます。(例:除却、修繕、立木竹の伐採など)
  • 措置の期限:いつまでに措置を完了させるべきかの期限が記載されます。

【段階3】命令

命令

命令とは、特定空き家の所有者に対して、市区町村長が特定空き家の状態を改善するために必要な措置を強制的に行わせるための行政処分です。

命令は、勧告に従わず、特定空き家の状態が改善されない場合に発出されます。

命令には法的拘束力があり、所有者は命令に従う義務があります。

命令に従わない場合は、以下の罰則が科せられる可能性があります。

  • 50万円以下の罰金: 命令に違反した場合、所有者には50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
  • 行政代執行: 命令に従わない場合、市区町村は所有者に代わって、必要な措置を強制的に実施する「行政代執行」を行うことができます。行政代執行にかかった費用は、所有者に請求されます。

命令は、所有者にとって非常に重い処分となります。命令を受けた場合は、速やかに市区町村と相談し、必要な措置を講じるようにしましょう。

【段階4】行政代執行

行政代執行とは、特定空き家の所有者等が命令に従わず、必要な措置を講じない場合に、市区町村が所有者等に代わって、強制的にその措置を実施することです。

具体的には、以下のような措置が考えられます。

  • 建物の解体: 倒壊の危険性が高い建物などを、市区町村が解体業者に委託して解体します。
  • 除草・清掃: 雑草が生い茂ったり、ゴミが散乱している敷地などを、市区町村が業者に委託して清掃します。
  • 修繕: 雨漏りや外壁の剥がれなど、軽微な修繕を市区町村が業者に委託して行います。
  • 立木竹の伐採: 隣地へ越境している樹木や、倒木の危険性がある樹木などを、市区町村が業者に委託して伐採します。
空家法に基づく行政代執行事例:埼玉県坂戸市
国土交通省:空家法に基づく行政代執行及び略式代執行事例

行政代執行が行われると、所有者等は以下の不利益を被ることになります。

  • 費用の負担: 行政代執行に要した費用は、全て所有者等が負担することになります。費用の支払いを拒否した場合、財産の差し押さえなどが行われる可能性もあります。
  • 住宅用地特例の適用除外: 行政代執行が行われた特定空き家は、固定資産税の住宅用地特例の適用から除外され、固定資産税が最大6倍に増加する可能性があります。
  • 氏名等の公表: 市区町村は、行政代執行を行った特定空き家の所有者等の氏名や住所などを公表する可能性があります。

行政代執行は、所有者等にとって大きな負担となるだけでなく、地域社会全体の安全や景観を守るために行われるものです。

所有者等は、行政代執行が行われる前に、市区町村と協力して、必要な措置を講じるようにしましょう。

【リスク3】税金の負担増

固定資産税等の住宅用地特例に係る空き家対策上の措置
国土交通省:固定資産税等の住宅用地特例に係る空き家対策上の措置

土地や家屋を所有していると、固定資産税などの税金がかかります。

ただし、住宅やマンションなどの居住建物の敷地である「住宅用地」には、課税標準(固定資産税等の評価額)を引き下げる特例が設けられています。

例えば固定資産税では課税標準が、住宅用地の面積200㎡以下の部分(小規模住宅用地)については6分の1に、面積200㎡を超える部分(一般住宅用地)については3分の1に減額されます。

種類小規模住宅用地(200㎡以下)一般住宅用地(200㎡超)
固定資産税課税標準の6分の1に減額課税標準の3分の1に減額
都市計画税課税標準の3分の1に減額課税標準の3分の2に減額

しかし、空家法に基づく勧告を受けた特定空家の敷地や、居住のために必要な管理がなされていない場合などで今後居住する見込みがない空き家の敷地には、この軽減措置は適用されなくなります。 

まとめ

本記事では、空き家を放置した場合に考えられる3つのリスクを説明させて頂きました。

空き家を放置しておくことのリスクをご理解いただけたのではないかと思います。

空き家の放置は、不法侵入や不法投棄などご自身のリスク以外にも、近隣の住民の方々へ迷惑をかけてしまうリスクがあります。

倒壊の危険性、衛生上の問題、景観の悪化、周辺環境への悪影響など、放置することで様々な問題を引き起こす可能性がある「特定空き家」に指定されて放置し続けると、罰則を受ける可能性もあります。

空き家の所有者として、責任を持って適切な管理を行うようにしましょう。

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