
私たちの身の回りには、たくさんの「ゴミ」が存在します。
家庭から出る生ゴミや空き缶、古新聞などはもちろん、工場や建設現場、オフィスなど、さまざまな場所で日々大量の廃棄物が生み出されています。
これらの廃棄物のうち、事業活動に伴って発生するものを「産業廃棄物」と呼びます。
産業廃棄物は、私たちの生活を支える経済活動の裏側で発生するものであり、その種類や量は多岐にわたります。
産業廃棄物は、私たちの生活に欠かせないものである一方で、適切に処理されなければ、環境汚染や健康被害を引き起こす可能性があります。
そのため、産業廃棄物には、特別なルールと管理体制が設けられており、事業者には適正な処理が義務付けられています。
本記事では、産業廃棄物とはどのようなものなのかを分かりやすくご説明したいと思います。
産業廃棄物とは
産業廃棄物とは、事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、法律(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)で定められた20種類の特定の廃棄物を指します。
これらの廃棄物は、環境や健康に影響を与えるおそれがあるものも含まれるため、適切な処理が求められます。
以下のような特徴があります。
- 法律で定められた20種類: 燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類など、具体的な種類が法律で定められています。
- 有害性: 環境や人体に悪影響を及ぼす可能性があるものも含まれるため、適切な処理が必要です。
- 処理責任: 産業廃棄物を排出した事業者には、自らの責任で適切に処理する義務があります。
産業廃棄物20種類
産業廃棄物処理法で定義される20種類の産業廃棄物は以下の通りです。
- 燃え殻:石炭がら、焼却炉の残灰など
- 汚泥:排水処理時に生じた汚泥、建設現場で生じた汚泥など
- 廃油:廃溶剤類を含むすべての油類
- 廃酸:酸性の廃液全般
- 廃アルカリ:アルカリ性の廃液全般
- 廃プラスチック類:合成樹脂くずのような合成高分子系化合物
- ゴムくず:天然ゴムのくず
- 金属くず:研磨時や切削時に生じた金属のくず
- ガラスくず・コンクリートくず・陶磁器くず
- 鉱さい:電気炉や溶解炉で生じたかす
- がれき類:工作・建築物の新築・改築・除去に伴って生じたコンクリートやレンガの欠片など
- ばいじん:工場や焼却施設などの集じん施設によって集められたばいじん
- 紙くず:特定の業種(建設業、パルプ・紙・紙加工品製造業など)から生じるもの
- 木くず:特定の業種(建設業、木材・木製品製造業など)から生じるもの
- 繊維くず:特定の業種(建設業、繊維工業)から生じるもの
- 動植物性残さ:食料品製造業、医薬品製造業、香料製造業で原料として使用した動植物に係る固形状の不要物
- 動物系固形不要物:と畜場や食鳥処理場で生じる固形状の不要物
- 動物のふん尿:畜産農業から排出される家畜のふん尿
- 動物の死体:畜産農業から排出される家畜の死体
- 政令第13号廃棄物:上記1〜19の産業廃棄物を処分するために処理したもので、1〜19に該当しないもの
これらの産業廃棄物は、事業活動に伴って生じるものであり、排出事業者は適切な処理を行う責任があります。
また、一部の産業廃棄物は特定の業種からのみ排出されるものとして定義されており、業種によって産業廃棄物の分類が異なる場合があります。
特別管理産業廃棄物とは
産業廃棄物は、その種類に応じて、さらに「特別管理産業廃棄物」と「一般産業廃棄物」に分けられます。
特別管理産業廃棄物は、特に有害性が強いもの(例:PCBを含む廃棄物)で、より厳格な処理が求められます。
特別管理産業廃棄物は、その有害性や危険性に応じて以下のように分類されます:
- 廃油:揮発油類、灯油類、軽油類で引火点70℃未満のもの
- 廃酸・廃アルカリ:著しい腐食性を有するpH2.0以下の廃酸、pH12.5以上の廃アルカリ
- 感染性産業廃棄物:医療機関等から排出される、感染性病原体が含まれる可能性のある廃棄物
- 特定有害産業廃棄物:PCB廃棄物、廃水銀等、廃石綿等、重金属やダイオキシン類を含む燃え殻・ばいじんなど
これらの廃棄物は、人の健康や生活環境に被害を及ぼす可能性があるため、通常の産業廃棄物よりも厳格な管理と処理が求められます。
「産業廃棄物」と「事業系一般廃棄物」の違い
「産業廃棄物」と似たもので「事業系一般廃棄物」というものがあります。
産業廃棄物と事業系一般廃棄物は、どちらも事業活動から生じる廃棄物ですが、法的定義の有無、有害性の程度、処理責任などに違いがあります。
事業者は、自らが排出した廃棄物がどちらに該当するかを正しく判断し、適切な処理を行う必要があります。
「産業廃棄物」と「事業系一般廃棄物」の特徴
以下に「産業廃棄物」と「事業系一般廃棄物」の特徴を簡単にご紹介します。
産業廃棄物の特徴
- 発生源: 企業や工場などの事業活動
- 種類: 法律で定められた20種類 (例:汚泥、廃油、廃プラスチック類など)
- 特徴: 環境や人体への影響が大きい可能性があり、特別な処理が必要
- 責任: 排出した事業者が処理責任を負う
- イメージ: 工場から出る有害な廃液や、建設現場から出る大量のコンクリートガラ
事業系一般廃棄物
- 発生源: オフィス、店舗、飲食店などの事業活動
- 種類: 産業廃棄物以外の事業活動で生じた廃棄物 (例:紙くず、生ゴミ、段ボールなど)
- 特徴: 家庭ゴミに近い性質だが、事業活動から生じたため区別される
- 責任: 排出した事業者が処理責任を負うが、一部自治体で収集・処理を行う場合もある
- イメージ: オフィスから出る紙くずや、飲食店から出る生ゴミ
「産業廃棄物」と「事業系一般廃棄物」の違いの3つのポイント
これらの「産業廃棄物」と「事業系一般廃棄物」の違いは大きくは以下の3ポイントがあります。
【ポイント1】法的定義の有無
- 産業廃棄物: 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)で、20種類が具体的に定められています。(例:燃え殻、汚泥、廃油、廃プラスチック類など)
- 事業系一般廃棄物: 産業廃棄物以外の、事業活動に伴って生じた廃棄物です。法律による明確な定義はありません。
【ポイント2】有害性の程度
- 産業廃棄物: 一般的に有害性が強く、環境や人体への影響が大きいと考えられています。そのため、専門的な処理が必要です。
- 事業系一般廃棄物: 家庭ごみに近い性質のものが多いですが、事業活動から生じるため、量が多く、種類も多岐にわたる場合があります。
【ポイント3】処理責任
- 産業廃棄物: 排出した事業者自身が、自らの責任で処理する必要があります。(許可を受けた処理業者に委託するなど)
- 事業系一般廃棄物: 基本的には事業者自身が処理責任を負いますが、一部の自治体では、家庭ごみと同様に収集・処理を行っている場合もあります。
産業廃棄物を適正に処理しなかった場合の罰則
産業廃棄物の適正な処理は、環境保護と公共の安全を確保するために重要です。
そのため、法律に従った処理が求められています。
産業廃棄物を適正に処理しなかった場合、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)に基づき、厳しい罰則が科される可能性があります。
主な罰則
罰則に関しては「廃棄物の処理及び清掃に関する法律 第五章 罰則 」の部分で以下のように定められています。
- 懲役および罰金: 違反者には、最大で5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が科されます。法人の場合は、最大3億円以下の罰金が科されることもあります。
- 不法投棄: 産業廃棄物を法定の場所以外に捨てる行為は「不法投棄」とされ、個人の場合で5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、法人の場合は3億円以下の罰金が科されます。
- 委託基準違反: 許可を持たない業者に廃棄物の処理を委託する行為も罰則の対象で、5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が科されます。
その他の違反と対策
- 無許可営業: 許可を得ずに廃棄物処理を行うことも違反となり、同様に厳しい罰則が適用されます。
- 改善命令への不従順: 改善命令に従わない場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されることがあります。
産業廃棄物の収集と運搬
産業廃棄物の処理には費用がかかるため、不法に投棄されるケースが後を絶ちません。
不法投棄は、景観を損ねるだけでなく、環境汚染や悪臭などの原因となり、地域住民の生活環境を脅かします。
そのため、処理責任の明確化や、マニフェスト制度(産業廃棄物管理票)による追跡システムなど、不法投棄を防止するためのルールが設けられています。
産業廃棄物の収集と運搬は、専門の許可を持った業者によって行われる必要があります。
都道府県知事から「産業廃棄物収集運搬業許可」を取得した業者のみが、この業務を行うことができます。
収集運搬業者は、廃棄物の排出場所と運搬先の両方の都道府県から許可を得る必要があり、許可証には取り扱える廃棄物の種類が明記されています。
産業廃棄物の収集運搬には以下の注意点があります。
- 廃棄物の飛散や流出を防ぐための適切な措置を講じる必要がある
- 収集運搬車両の両側面に産業廃棄物収集運搬車であることを表示しなければならない
- (委託して運搬する場合には)マニフェストでの管理が義務付けられる
- 排出事業者は、委託する収集運搬業者の許可内容や処理能力を事前に確認する責任がある
これらの規制は、産業廃棄物の適正な処理と環境保護を目的としています。
産業廃棄物の再利用方法
産業廃棄物の再利用方法には主に3つのアプローチがあります:
- マテリアルリサイクル:廃棄物を新たな製品の原料として再利用します。例えば、プラスチック容器を破砕・洗浄し、再度プラスチック製品の原料として使用します。
- サーマルリサイクル:廃棄物を燃焼させて発生する熱エネルギーを回収し、発電などに利用します。
- ケミカルリサイクル:廃棄物に化学的処理を施し、別の原料へと変換します。例えば、廃プラスチックを燃焼してガス化し、二酸化炭素や水素を回収して別の原料として再利用します。
これらの方法を適切に選択・実施することで、産業廃棄物の再利用率を高め、環境負荷の低減と資源の有効活用を図ることができます。
まとめ

本記事では、産業廃棄物とはどのようなものなのかを説明させていただきました。
産業廃棄物には細かくルールが決められていて、適正に処理をしなかった場合は罰則を受ける可能性もあることをご理解いただけたのではないかと思います。
産業廃棄物は、その種類や量、有害性の高さから、適切に処理されなければ、環境や人体に深刻な影響を与える可能性があります。
環境汚染の防止、資源の有効活用、不法投棄の防止、健康保護といった観点からも、産業廃棄物は適切に処理をするようにしましょう。

