産業廃棄物マニフェスト(産業廃棄物管理票)をわかりやすく解説します

産業廃棄物の処理を業者に委託する際によく聞くのが「マニフェスト」です。

産業廃棄物マニフェストとは、正式には「産業廃棄物管理票」といい、排出事業者(廃棄物を出す企業)が収集運搬業者や処分業者に産業廃棄物の処理を委託する際に交付する伝票のことです。

この伝票によって「どのような産業廃棄物を、誰がどこに運んで、どこでどのように処分したか」を排出事業者自身が確認・管理できるようになります。

いわば荷物の 宅配伝票 の産業廃棄物版であり、廃棄物の追跡管理を行うための仕組みです。

マニフェスト制度の目的と背景

マニフェスト制度が導入された最大の目的は、産業廃棄物の不法投棄を防止し、廃棄物が適正に処理されていることを確実にすることにあります。

1990年代初頭、日本各地で大量の産業廃棄物の不法投棄事件が社会問題化しました。

有名な例として1990年頃に香川県の豊島で発覚した大規模不法投棄事件が挙げられます。

この事件以降、各地で不適正処理や不法投棄が相次いだことを受けて、排出事業者自らが委託先での処理を把握・確認する手段としてマニフェスト制度が整備されました。 

法律的には、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)の改正により、1993年4月の廃棄物処理法改正で特別管理産業廃棄物にマニフェストの使用が義務化され、さらに1998年12月の改正ですべての産業廃棄物に対象が拡大されました。

これにより排出事業者は、自社から出た産業廃棄物が最終処分に至るまで適正に処理されたか一貫して把握・確認する責任を負うことになりました。

制度の背景には、「安価な処理に飛びついた結果、適正処理がなされず不法投棄につながってしまう」という悪循環を断ち切る狙いがありました。

マニフェストの仕組みと流れ

紙マニフェストは一般にA票からE票までの7枚複写式の伝票になっています(A票、B1票、B2票、C1票、C2票、D票、E票)。

マニフェストは排出事業者(廃棄物を出す側)・収集運搬業者(運ぶ側)・処分業者(処分する側)の間で受け渡され、複写された各伝票がそれぞれの手元に控えとして残る仕組みです。

以下は紙マニフェストの基本的な流れです。

交付と引渡し

排出事業者は産業廃棄物の種類・数量、排出事業者名、委託先である収集運搬業者・処分業者の氏名/名称、最終処分場所など必要事項をマニフェストに記入し、廃棄物本体とともに7枚綴りの伝票すべてを収集運搬業者に渡します。

収集運搬業者は廃棄物を受け取った際にマニフェストの「運搬受託」欄に自社の情報を記入し、その場でA票(排出事業者控え)を排出事業者に切り離して返します。

A票は排出事業者が「確かに廃棄物を引き渡した」という証拠として受け取るものです。

運搬と中間処理

収集運搬業者は廃棄物を運搬し、予定の処分業者(中間処理業者や最終処分業者)に廃棄物と残りのマニフェストを引き渡します。

その際、処分業者はマニフェストの「処分受託」欄に自社情報を記入し、B1票B2票を収集運搬業者に渡します。

B1票は収集運搬業者の控えとして手元に保存され、B2票は運搬が完了した報告として排出事業者に返送されます。

排出事業者はB2票を受け取ることで、「委託した廃棄物が予定の処分施設まで確実に運ばれた」ことを確認できます。

処分の完了

廃棄物の処理(中間処理や最終処分)が完了すると、処分業者は処分終了日などをマニフェストに追記します。

処分業者はC1票を自社の控えとして保存し、C2票を収集運搬業者に返送して「処分完了」を通知します。

さらにD票を排出事業者に返送し、「委託した産業廃棄物の処分が完了した」ことを知らせます。

これにより排出事業者はD票の到着をもって中間処理または最終処分の完了を確認できます。

最終処分の確認

上記の流れは中間処理(例:焼却や破砕)がある場合の一次マニフェストに相当します。

中間処理後に残った残渣の最終処分を別業者に委託する際には、新たに二次マニフェストを発行して同様の流れを辿ります。

最終処分業者からは処分完了後、排出事業者(または中間処理業者)にE票が返送されます。

E票は最終処分終了を確認する伝票で、排出事業者はE票の内容を見ることで、廃棄物が最終的にどこで処分されたか(埋立地の所在地・名称、最終処分完了日など)を確認します。

一次マニフェストと二次マニフェストのE票を照合することで、排出事業者は廃棄物の全処理工程が完了したことを把握できます。

以上のように、排出事業者の手元には運搬完了時にB2票、処分完了時にD票、最終処分完了時にE票が返送されてきます。

排出事業者は、自分が交付したA票の控えと照らし合わせて B2・D・E票の内容に漏れや誤りがないか確認します。

万が一、予定した期限までにこれらのマニフェストが戻ってこない場合は、処理委託先に問い合わせて状況を調査することが法律で義務付けられています(詳細は後述)。

このような伝票のやり取りを電子的に行う仕組みが後述する電子マニフェストです。 

マニフェストの効果

 マニフェストは本来、排出事業者が産廃の流れを監視するための制度ですが、副次的な効果として全国の産業廃棄物処理データが蓄積される仕組みにもなっています。

集められたマニフェスト情報は、行政による廃棄物監視だけでなく、産業活動量の指標やリサイクル促進のためのビッグデータとしても活用されています。

マニフェストに記載すべき内容

マニフェストには、廃棄物の適正処理に必要な情報をもれなく記載する必要があります。具体的には以下のような項目が含まれます。

  • 排出事業者の情報: 会社名(名称)、所在地、担当者名など。誰が廃棄物を排出し、マニフェストを発行したのかが分かるようにします。
  • 収集運搬業者・処分業者の情報: 委託先となる運搬業者および最終処分を行う処分業者それぞれの名称・所在地など。誰に運搬・処分を委託したか明確にします。産業廃棄物処理業の許可業者であることが前提です。
  • 産業廃棄物の種類・数量: 排出する廃棄物の種類(例:汚泥、廃油、燃え殻など)および数量(重量や体積など)を記載します。複数種類ある場合は原則種類ごとにマニフェストを分けます。
  • 荷姿や性状: 廃棄物がドラム缶入りか袋詰めか、液状か固形かなど荷姿や性質に関する情報も記載します(必要に応じて)。例えば石綿含有産業廃棄物や特別管理産業廃棄物である場合はその旨を記載します。
  • 委託契約書番号: あらかじめ結んでいる産廃処理委託契約書に対応する契約番号等があれば記載します。契約書とマニフェストをひも付けることで処理内容を照合しやすくします。
  • 運搬および処分の日時・場所: 実際に廃棄物を積み込んだ日付、運搬先(処分施設)の所在地・名称、処分方法、処分が完了した日付(最終処分終了日)など、廃棄物が辿った流れを示す日時・場所の情報を記録します。特に最終処分を行った場所の所在地や処分終了日はE票に記載され、排出事業者の元に戻ります。

記載内容に不備や誤りがあってはいけないため、交付前に記載事項をよく確認することが大切です。

例えば数量の単位ミスや、相手先名称の間違いなどはトラブルのもとになります。

また、 マニフェスト交付の単位として「廃棄物の種類ごと」「運搬先ごと」「運搬車両ごと」にそれぞれ発行するのが原則です。

異なる種類の廃棄物は一つのマニフェストに混載せず、運搬先が異なる場合や複数車両で運ぶ場合も基本は分けて発行します(※複数の車両で同一地点に同時運搬する場合など一部例外あり)。

マニフェストの保管義務と返送期限

排出事業者・収集運搬業者・処分業者のそれぞれが、やりとりしたマニフェストの写しを一定期間保管することは法律で義務付けられています。

具体的には、マニフェスト交付や受領の日から5年間の保存義務があります。

例えば排出事業者はA票(自身が交付した控え)を交付日から5年間保存し、収集運搬業者から返送されたB2票、処分業者から返送されたD票・E票もそれぞれ受領日から5年間保存しなければなりません。

収集運搬業者は自社が控えるB1票を運搬終了後5年間、処分業者から受け取ったC2票を受領日から5年間保存します。

処分業者も同様に、自社控えのC1票を処分完了日から5年保存するなど、全ての関係者が5年間記録を保管する決まりです。 

また、マニフェストの返送期限も定められています。

法律上、排出事業者がマニフェストを交付してから以下の期間内に各伝票の返送を受け取る必要があります。

  • B2票(運搬終了報告)およびD票(処分終了報告): 交付日から90日以内(※特別管理産業廃棄物の場合は60日以内)に排出事業者あて返送されること。通常の産廃であればおおむね3か月以内に、運搬および中間処理が完了した通知が届く想定です。
  • E票(最終処分終了報告): 交付日から180日以内(約6か月以内)に排出事業者あて返送されること。最終処分まで含めた完了通知は半年以内が目安です。

これらの期間までに各伝票の写しが戻ってこない場合、排出事業者はただちに委託先に問い合わせて処理状況を確認しなければなりません。

もし紛失や未処理が判明した場合は、環境汚染防止のため必要な措置(例えば現地確認や回収措置)を講じ、その結果を30日以内に都道府県知事等へ報告する義務があります。

この報告は一般に「措置内容等報告書」と呼ばれ、マニフェスト未回収時のフォロー手続きとして定められています。

要するに、マニフェストが期限までに返送されない=不適正処理の兆候とみなし、行政への報告と是正措置が求められる仕組みです。 

なお、排出事業者は毎年度、前年度に何件マニフェストを交付したか等の「産業廃棄物管理票交付等状況」を集計し、自治体へ報告する義務も課されていますcity.morioka.iwate.jp

これは毎年4月1日から6月30日までの間に行う年次報告で、紙マニフェストで運用している部分について提出が必要です(電子マニフェスト使用分は除かれます)。

この年次報告制度も含め、マニフェストの発行から最終処分確認・報告まで一連の管理を徹底することで、不適正処理の未然防止を図っています。

紙マニフェストと電子マニフェストの違い

現在では、従来の紙伝票を使ったマニフェストに加えて、電子マニフェスト(オンライン上のマニフェスト)を利用することもできます。

電子マニフェストは紙マニフェストの記載内容を電子データ化し、排出事業者・収集運搬業者・処分業者の三者がインターネット上の情報処理センター(JWセンター)を介してデータをやり取りする仕組みです。

環境省が指定するこの情報処理センター(公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センター)がデータを一元管理し、各種通知や保存を代行します。

以下に紙と電子の主な違いを整理します。

運用方法

紙マニフェストでは伝票を7枚つづりの紙で発行し、各工程で手渡し・郵送等により受け渡します。

一方、電子マニフェストではインターネット上のシステムに必要情報を登録し、各業者がオンライン上で運搬完了・処分完了の報告を行います。

紙の「交付・返送」に対し、電子は「登録・報告」の操作になります。

事務負担

紙では伝票の記入や押印、郵送管理などアナログな手間がかかりますが、電子ではデータ入力だけで済み、事務処理が効率化できます。

例えば返送期限が過ぎた場合、自動で通知が来る機能もあり管理が容易です。

情報の正確性

電子マニフェストはデータ上で完結するため伝票の紛失や偽造の心配がほとんどありません。

データはセンターで一元管理され、関係者以外は改ざんできない仕組みになっています。

紙の場合は汚損・紛失リスクがあり、手書きゆえの読み間違いも起こりえます。

保管・報告義務

紙では各社が受け取った伝票を5年間保管する義務がありますが、電子マニフェストでは情報処理センター側で5年間のデータ保存が法的に義務付けられているため、利用者自身が紙を保管する必要はありません(システム上で過去データを閲覧可能です)。

また紙で必要だった年次の「交付状況報告書」提出も、電子運用部分については提出不要となります。

このように電子化によって法定報告・保存の手間が大幅に軽減されます。

導入コスト

紙マニフェストは伝票を購入する費用(伝票1冊数百円程度)や郵送コストがかかります。

電子マニフェストはシステム利用料(件数や契約形態によりますが1件あたり数十円~数百円程度)や初期登録費用がかかります。

しかし 経理・管理コストの削減効果や、法令遵守の容易さを考えると電子化のメリットは大きいでしょう。

電子マニフェストは年々普及が進められており、環境省も利用拡大のロードマップを策定して推進しています。

電子化により行政の監視効率も上がり、排出事業者・処理業者双方にとって業務がスムーズになる利点があります。

ただし電子マニフェストを利用するには事前に情報処理センター(JWNET)への加入申請が必要であり、インターネット環境や社内の運用体制の整備も求められます。

自社の廃棄物排出量や管理体制に応じて、紙から電子への切り替えも検討してみると良いでしょう。

※電子マニフェストに関しましては『電子マニフェストをわかりやすく解説します』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。

マニフェスト違反と罰則について

マニフェストは法令で細かなルールが定められており、違反には厳しい罰則も用意されています。

例えば、排出事業者が産業廃棄物を委託する際にマニフェストを交付しなかった場合(交付義務違反)や、決められた保存期間保管しなかった場合(保存義務違反)、虚偽の内容を記載した場合などは、廃掃法に基づき1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。

これは排出事業者だけでなく、収集運搬業者・処分業者がマニフェストに関する義務違反を犯した場合も同様です。

例えば処分業者がマニフェストを受け取らずに産廃を引き受けた場合(※2011年以降、処理業者側にも「マニフェストなしで産廃を受け取ることを禁止」する義務が課されました)、このようなケースも違反となります。 

さらにマニフェストを紛失したり未回収のまま放置したりすると行政処分の対象にもなります。

不適正処理を見逃したと判断されれば、事業者名の公表や是正命令が出されることもあり得ます。

特に悪質な不法投棄案件では、マニフェスト未交付が違法処理のトレースを困難にし、排出事業者も含め厳正に罰せられた事例があります。

法改正により2018年以降は虚偽記載などに対する罰則も強化され、法人への両罰規定(行為者個人だけでなく法人にも罰金刑)が適用されるようになっています。 

このようにマニフェストの適正な運用は「知らなかった」では済まされない重要事項です。

産業廃棄物を扱う企業は、担当者が制度を正しく理解し運用ルールを守ることが求められます。

不明点があれば行政や専門業者に相談し、法令遵守に努めましょう。

まとめ

まとめ

産業廃棄物マニフェスト(産業廃棄物管理票)は、産業廃棄物の委託処理を適正に管理するための重要な伝票です。

排出事業者はマニフェストを発行・管理することで、自社の廃棄物が適切に運ばれ最終処分まで完了したことを確認し、不法投棄の防止や環境保全に責任を果たすことができます。

マニフェストには紙と電子の方法がありますが、いずれにしても5年間の保存義務返送期限の管理など守るべきルールがあります。

制度違反には厳しい罰則もあるため、法令に沿った確実な運用が不可欠です。 

初めてマニフェストを扱う方にとっては少々複雑に感じられるかもしれません。

しかし、本記事で解説したように基本的な流れとポイントを押さえれば、「誰が・いつ・どこで・何を・どう処理したか」を追跡するシンプルな仕組みだと理解できるでしょう。

産業廃棄物の適正処理は企業の社会的責任(CSR)の一環でもあります。マニフェスト制度を上手に活用し、適正処理とコンプライアンスの徹底に努めていきましょう。

必要に応じて電子マニフェストの導入も検討し、効率的かつ確実な産廃管理を実現することが大切です。

最後までお読みいただきありがとうございます。

産業廃棄物マニフェストについての疑問や不安が解消し、「悩みが解決した」「詳しく分かりやすい」と感じていただけたなら幸いです。