
産業廃棄物の管理に欠かせない「マニフェスト」(産業廃棄物管理票)という制度をご存知でしょうか。
これは排出事業者(廃棄物を出す企業)が産業廃棄物の処理を他社に委託する際に使用する管理伝票で、不法投棄を防止し適正処理を徹底するために法律で義務付けられています。
近年、このマニフェストを紙ではなくインターネット上でやり取りする「電子マニフェスト」が普及しつつあります。
この記事では、マニフェスト制度の基本から電子マニフェストの仕組み・メリット、さらには導入状況や利用方法まで、わかりやすく解説します。
(※マニフェストに関しましては『産業廃棄物マニフェスト(産業廃棄物管理票)をわかりやすく解説します』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
マニフェスト制度とは
まずは基本となるマニフェスト制度についてご説明します。
マニフェスト制度とは、産業廃棄物の排出事業者(廃棄物を出す側)が、自社から出た産業廃棄物の処理状況を最後まで把握・管理し、不法投棄の防止など適正処理を確保することを目的とした制度です。
具体的には、排出事業者が産業廃棄物の収集運搬業者や処分業者に処理を委託する際に、産業廃棄物の種類・量・委託先などを記載した伝票(産業廃棄物管理票)を交付しなければなりません。
処理が終わった後、処分業者から処理終了の報告が記載されたマニフェストの写し(控え)が返送されてくることで、排出事業者は自分が出した廃棄物が最終処分まで契約どおりに処理されたことを確認できます。
このようにして排出事業者には廃棄物を最後まで見届ける責任(排出事業者責任)が課されており、マニフェストを使用しないと法律違反となり罰則の対象にもなります。
マニフェスト(産業廃棄物管理票)には紙で発行するもの(紙マニフェスト)と、後述する電子システム上で発行するもの(電子マニフェスト)の2種類があります。
どちらを使っても法的な効力や記載すべき項目は同じですが、紙マニフェストの場合は5年間の写しの保存義務や行政への報告義務など事務負担が大きく、管理に手間がかかる点が課題でした。この課題を解決するため、2000年代以降に普及が進められているのが電子マニフェストです。
電子マニフェストとは
電子マニフェスト制度は、産業廃棄物管理票の情報を紙から電子データに切り替え、排出事業者・収集運搬業者・処分業者の3者が情報処理センターを介したネットワーク上でマニフェスト情報をやり取りする仕組みです。
従来は紙の伝票でやり取りしていた情報をインターネット経由で共有することで、スムーズかつ効率的な管理を実現しようという目的で導入されました。実際に電子マニフェスト制度の運用は1998年12月に開始されており、現在では日本全国で利用可能な仕組みとなっています。
電子マニフェスト制度は日本の廃棄物処理法に正式に位置付けられた制度であり、その根拠となる法律(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)第12条の5に基づいて公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター(通称:JWセンター)が全国で唯一の「情報処理センター」として指定されています。
JWセンターは国の指定を受け電子マニフェストシステム(JWNET)の運営主体となっており、このシステム上で全国の電子マニフェスト情報を一元管理しています。
排出事業者(廃棄物を発生させる事業者)、収集運搬業者(産業廃棄物の収集・運搬を行う業者)、処分業者(中間処理や最終処分を行う業者)の3者が、JWセンターが運営する情報処理センターを介してマニフェスト情報をリアルタイムにやり取りします。
これにより、全ての関係者が常に同じ情報を共有し、廃棄物が適切に処理されているかをいつでも確認できるようになります。
電子マニフェストを利用する場合、事前にこのJWセンターのシステム(JWNET)への加入手続きを行い、アカウントを取得する必要があります。
また重要なポイントとして、排出事業者・収集運搬業者・処分業者の委託契約に関わる全ての企業が電子マニフェストシステムに加入していなければ、その委託取引では電子マニフェストを利用できません。
例えば排出事業者だけが加入していても、委託先である収集運搬業者や処分業者が未加入であれば、その取引では従来どおり紙マニフェストを使う必要があります。
この点は電子マニフェストを導入する際に注意すべきポイントです。
紙マニフェストと電子マニフェストの違い
紙マニフェストと電子マニフェストは、基本的な役割や記載内容は共通ですが、運用方法にいくつか違いがあります。
以下に主要な違いを比較表にまとめました。
| 項目 | 紙マニフェスト(従来の管理票) | 電子マニフェスト(オンライン管理) |
|---|---|---|
| 発行・登録のタイミング | 廃棄物を引き渡す際に、産業廃棄物管理票(紙)をその場で交付する | 廃棄物を引き渡した日を含めず3営業日以内に、マニフェスト情報をJWセンターの情報処理システムに登録する |
| 処理完了の確認方法 | 処分業者から返送されるマニフェストの控え(B2票・D票・E票)と自社控え(A票)を照合して、それぞれ運搬完了・処分完了・最終処分完了を確認する | JWセンターのシステム上で、運搬終了報告・処分終了報告・最終処分終了報告が入力されると通知メール等が届き、それにより各段階の完了を確認できる |
| マニフェスト伝票の保管 | マニフェストの写し(A票等)を5年間保存する義務がある。大量の紙を保管するためのスペースや管理の手間が必要 | マニフェスト情報はJWセンターのデータベースに自動保存されるため、自社で紙を保管する必要がない。過去5年分のデータはいつでもシステム上で確認可能で、紛失の心配もない |
| 行政への報告 | 排出事業者は毎年6月末までに、前年度に交付したマニフェストの状況を自治体(都道府県知事等)へ報告書提出する義務がある | JWセンターの情報処理センターが自治体への報告を代行するため、電子登録分について排出事業者自ら報告書を提出する必要はない |
(注)上記の比較以外にも、電子マニフェストを利用するにはパソコンやインターネット環境が必要になる、利用料がかかる、といった違いもあります。詳しくは後述します。
ご覧のように、電子マニフェストを使うことで紙のやり取りに比べて事務負担が大幅に軽減されることが分かります。
ただし、法律上の「産業廃棄物管理票」として必要な情報やルール自体は紙・電子で共通です。
電子化したからといって記載内容が省略できるわけではなく、「媒体が紙から電子になった」という違いである点は押さえておきましょう。
その上で、次の章では電子マニフェストならではのメリットをさらに掘り下げて解説します。
電子マニフェストのメリット
電子マニフェストには、紙マニフェストにはない様々なメリットがあります。
主なポイントを順番に見ていきましょう。
- 事務処理が大幅に効率化: 紙への手書きや伝票郵送・回収の手間がなくなり、パソコン上で簡単にマニフェストを発行・管理できます。マニフェスト情報の検索・集計もワンクリックで可能です。JWセンターによれば、電子マニフェストへの切り替えによって年間約3,000時間もの事務作業時間を削減できたという試算もあります。さらに都道府県などへの年次報告も情報処理センターが代行するため、報告書作成・提出にかかる手間も削減されます。
- 法令順守の徹底とミス防止: 電子マニフェストでは法定必須項目がシステム上で管理されており、必須事項が入力されていないと登録できない仕組みになっています。そのため記載漏れ(=マニフェストの不交付)による違反を防ぐことができます。また、運搬完了・処分完了の報告期限が近づいているのに未報告の場合、システムが自動でアラート通知を出す機能もあり、報告漏れ・確認漏れによる違反やトラブルを防止できます。紙の場合に問題となりがちな伝票の紛失についても、電子マニフェストなら心配無用です。
- データの透明性・共有性: 電子マニフェストでは排出事業者・収集運搬業者・処分業者の3者が常に最新の同じデータを閲覧・確認できるため、不適切な改ざんや虚偽報告の防止に役立ちます。第三者機関であるJWセンターがデータを一元管理しているためセキュリティ面も強固ですjwnet.or.jp。離れた現場の情報も本社からリアルタイムで把握でき、関係者全員で監視できるため、不法投棄の抑止にもつながります。
- 書類保管・行政報告の手間削減: 前述のとおり、紙マニフェストでは大量の伝票を最低5年間保管しなければなりませんが、電子化すれば煩雑な保管作業や保管場所が不要になります。過去データも電子上で簡単に検索・閲覧できるため、監査対応なども効率化します。さらに、電子マニフェスト利用分については自治体への年次報告が不要になるため、排出事業者の報告業務が大幅に軽減されます。
以上のように、電子マニフェストは業務効率の向上・コンプライアンス遵守の強化・情報管理の高度化といった点で多くのメリットをもたらします。特に産業廃棄物の量が多い企業や事業所ほど、電子化による効果は大きくなるでしょう。ただし次章で述べるように、一部では電子マニフェストの利用が義務化されているケースもありますので、自社が該当するかどうかも確認が必要です。
電子マニフェストの普及状況と義務化動向
電子マニフェストの普及状況は年々向上しています。
電子マニフェスト制度を運営するJWセンターの発表によると、2024年度時点で約64.5%の産業廃棄物委託処理量が電子マニフェストで管理されており、2030年までに75%まで高める目標が掲げられています。
また、電子マニフェストシステムへの加入者数も右肩上がりで増加しています。例えば2024年度末時点で約323,812事業者がJWNETに加入しており(うち排出事業者約28.4万者、収集運搬業者約2.99万者、処分業者約1.03万者)、2025年度には34万件超まで拡大しています。
このように、多くの企業が電子マニフェストのメリットを認識し、利用に踏み切っている状況です。
さらに近年では、電子マニフェストの利用が一部義務化される動きもあります。
具体的には2020年4月1日から、特別管理産業廃棄物(いわゆる産業廃棄物の中でも爆発性・毒性などがある危険廃棄物。
PCB廃棄物を除く)の排出量が年間50トン以上の事業場を持つ排出事業者については、当該事業場から出る特別管理産業廃棄物を委託処理する際に電子マニフェストの使用が法律で義務付けられました。
簡単に言えば、大量の特管産廃を出す大規模事業者は電子マニフェストの利用が必須になったということです。
該当する事業者が電子マニフェストを使わず紙マニフェストで交付した場合、行政からの改善勧告や命令等の対象となりますので注意が必要です。
この一部義務化の対象に当てはまらない中小規模の事業者であっても、行政から電子化が強く推奨されていることに変わりはありません。
将来的にはさらなる電子化義務範囲の拡大も予想されますので、早めに電子マニフェストに移行しておくことがおすすめです。
電子マニフェストの導入方法と費用
最後に、電子マニフェストを実際に利用するための手順や必要な準備について説明します。
導入に必要なもの・事前準備
電子マニフェストを利用するには、まずインターネットに接続できるパソコンなどの端末が必要です。
また前述のとおり、取引先となる収集運搬業者・処分業者も含め関係する全ての業者がJWセンターの電子マニフェストシステムに加入していることが前提になります。
そのため、自社だけでなく委託先の加入状況も事前に確認しておきましょう。
もし取引先が未加入の場合は、電子マニフェストの利用を機に加入を検討してもらう必要があります。
JWNETへの加入手続き
電子マニフェストシステムを利用するには、JWセンターへの加入申込みが必要です。
加入申請はウェブ上の専用フォームまたは所定の書面で行います。
具体的な手順としては、JWセンターの公式サイト上で利用申込書に必要事項を記入し送信(または書面を郵送)すると、後日ログインID等の情報が発行されます。
加入申込時には、自社が排出事業者・収集運搬業者・処分業者のどれに該当するかを選択し、後述する料金区分の選択も行います。
自治体によっては電子マニフェスト導入に関する講習会や説明会を開催している場合もありますので、不安な方は地元の産廃担当部署や産業廃棄物協会などに問い合わせてみるのもよいでしょう。
利用料金
電子マニフェストシステムの利用には所定の料金(利用料)が発生します。
紙マニフェストの場合、伝票そのものの購入費や郵送費程度しかかかりませんでしたが、電子マニフェストではシステム運営費用として年会費と伝票登録ごとの使用料をJWセンターに支払う形になります。
料金体系は排出事業者・収集運搬業者・処分業者それぞれで異なり、例えば排出事業者の場合は年間の登録件数に応じてAプラン(大量利用向け)とBプラン(少量向け)の2種類が用意されています。
Bプラン(年間登録2,400件以下)の場合、基本料は年1,980円(税込)と安価ですが1件ごとの使用料がやや高めに設定されており、逆にAプラン(2,401件以上利用)は基本料26,400円/年と高めな代わりに1件あたりの使用料が割安になる、といった仕組みです。
(※具体的な金額は変更される場合もあるため、最新の料金はJWセンター公式情報をご確認ください)
中小の排出事業者向けに団体加入割引(C料金)も用意されています。
収集運搬業者・処分業者については排出事業者より低めの料金体系が別途定められています。
このように電子マニフェスト利用には多少のコストがかかりますが、業務効率化による人件費削減効果や法令違反リスクの低減効果を考えれば十分に元が取れるケースが多いでしょう。
円滑な導入のために
電子マニフェストを導入する際は、社内の運用ルール整備や担当者への教育も大切です。
例えば、どのタイミングで誰がシステム入力を行うか、万一入力ミスがあった場合の修正フロー、取引先との情報共有方法などを事前に決めておくとスムーズです。
またJWセンターでは操作マニュアルや操作研修セミナー、デモシステムなども提供しています。
パソコン操作に不慣れな方でも分かりやすい画面設計になっており、心配な点はサポート窓口に問い合わせることもできます。
必要に応じて、民間の電子マニフェスト支援サービス(代行入力サービスや専用ソフトウェアなど)を利用する方法もあります。
自社の廃棄物管理量やスタッフのITスキルに応じて、無理のない形で電子マニフェスト運用をスタートさせると良いでしょう。
まとめ

電子マニフェストは、産業廃棄物処理における透明性・効率性を飛躍的に高める画期的なシステムです。
紙ベースの運用に比べて事務作業の負担を軽減し、法令違反のリスクも減らすことができるため、多くの企業が続々と導入を進めています。
特に近年は一部大企業で利用が義務化されるなど、業界全体で電子マニフェストへの移行が加速しています。
政府も普及率向上に向けロードマップを策定しており、将来的には電子マニフェストが当たり前の標準になると考えられます。
現在まだ紙マニフェストを利用している企業のご担当者様も、この機会にぜひ電子マニフェストへの切り替えを前向きに検討してみてください。
電子化することで得られるメリットは大きく、「マニフェスト管理の悩みが解決した」「疑問が解消した」「詳しく分かりやすい」と感じていただけるはずです。
導入方法や運用に不安がある場合は、環境省やJWセンターの公式情報を参考にするほか、産業廃棄物処理の専門業者に相談すれば具体的なアドバイスを得られます。
産業廃棄物の適正処理とスムーズな管理のために、電子マニフェスト制度を上手に活用していきましょう。
皆様の廃棄物管理業務の一助になれば幸いです。

