
解体工事とは、建物などの構造物を計画的に取り壊し、撤去する工事のことです。
「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律」で「建築物その他の工作物の全部又は一部を解体する建設工事」とされています。
簡単に言えば、建物本体を壊すだけでなく、出た廃材を処分し、更地になるよう土地をきれいにならすまでを含めた一連の作業を指します。
古くなった家屋の建て替えや老朽化した建物の安全対策などで必要になる重要な工事であり、法令に従った適切な方法で行わなくてはなりません。
解体工事が必要となるケースとは

解体工事は「何かを実現するための手段」として行われることがほとんどで、その背景にはさまざまな事情があります。
主なケースとして、次のような場面が挙げられます。
- 建て替え・リフォーム:老朽化した家屋を新築し直すため、あるいは大規模リフォームの前段階として既存建物を一部または全て取り壊す場合。
- 土地の有効活用や売却:遊休地となっている古家や倉庫を解体し、更地にして土地を売却したり駐車場や新たな用途に利用したりする場合。
- 特定空家対策:管理不全で倒壊の恐れがある空き家が「特定空家等」に指定され、行政から改善を求められたため取り壊すケース。老朽建物の放置は近隣への危険やクレームにつながるため、解体して安全を確保します。
- 契約や相続の事情:借地上の建物を地主へ返還するために撤去する場合や、相続した不動産を分割・現金化しやすくするため更地にする場合。
- 災害による損壊:地震・台風・火災などで建物が損傷し使用不能になった場合に、復旧や安全のため解体が必要になることもあります。
以上のように、解体工事はさまざまな理由で行われます。
いずれの場合も、単に建物を壊すだけでなく次のステップ(新築・売却・土地活用など)へ円滑につなげるための重要な工程だといえます。
目的に応じて建物全体を解体するか一部のみ解体するかなど工事範囲が決まります。
解体工事の種類(どこまで壊すか)

一口に解体工事といっても、壊す範囲に応じていくつかの種類に分かれます。
建物全体を更地にするケースもあれば、一部だけ壊したり内装だけ撤去したりするケースもあります。
主な解体工事の種類と概要は次のとおりです。
| 種類 | 概要 |
|---|---|
| 全解体 | 建物全体を完全に取り壊し、更地にする工事です。 基礎部分まで含めて建物をすべて撤去します。 老朽化や土地再活用のため既存建物を丸ごと解体する最も一般的な形態です。 作業中は廃材の分別や適正な処理を行い、環境に配慮しながら進めます。 |
| 部分解体 | 建物の一部のみを解体する工事です。 構造上問題ない範囲で壁や部屋の一部などを取り壊し、残った部分は補修して引き続き使用できるようにします。 リノベーションや増改築で間取り変更したい場合などに行われます。 |
| 内装解体 | 建物の骨組み・外壁など主要構造は残し、内部の壁・床・天井や設備だけを撤去する工事です。 住宅のリフォームや店舗の退去時(原状回復工事)などで、内装だけを一新したいケースに用いられます。 |
| 外構解体 | 建物本体ではなく、敷地内の付帯構造物を撤去する工事です。 ブロック塀・門扉・カーポート・物置・庭のコンクリート舗装などが対象になります。 敷地の用途変更や老朽設備の撤去に伴い行われます。 |
全解体では更地にするため建物も基礎もすべて撤去します。
部分解体は建物の一部だけ取り壊すもので、例えば長屋(一棟続き住宅)の一戸だけを解体するような「切り離し工事」もこの一種です。
内装解体はテナント退去時のスケルトン工事など内装のみ除去するケースで行われ、中には壁・床・設備をすべて取り払って骨組み(スケルトン)だけにすることもあります。
外構解体は門や塀だけ撤去するなど、小規模な解体工事と言えるでしょう。
お手持ちの建物をどの範囲まで解体したいのかによって、依頼する工事内容も変わってきます。
解体工事の進め方(一般的な手順)

解体工事は「準備」→「解体作業」→「処分・整地」という流れで進みます。
ただ建物を壊すだけではなく、事前準備や後片付けまで多くの工程を踏む点に注意が必要です。
以下に一般的な解体工事の手順を説明します。
事前の届け出・準備

工事に入る前に、法律で定められた各種届け出や手続きを行います。
建築物の延べ床面積が80㎡以上の場合は建設リサイクル法に基づく届出を工事開始の7日前までに提出する必要があります(後述)。
また、建物の事前調査も重要です。
アスベスト(石綿)については、解体・改修工事の前に事前調査(書面調査・現地目視等)を行い、必要な対策を講じます。(参考:厚生労働省ホームページ『4月1日から石綿の事前調査結果の報告制度がスタートします』)
また、一定規模以上など「報告対象となる工事」では、元請事業者が事前調査結果を労働基準監督署および地方公共団体へ報告することが義務付けられており、原則として電子システムで一括報告が可能です。
その他、電気・ガス・水道などライフラインの停止手配や近隣への工事説明・挨拶もこの段階で行います。
必要に応じて道路使用許可の申請や足場設置届なども準備します。
足場の設置・養生

高所作業や建物周囲の安全確保のために足場を組み、防音シートや防塵シートで建物を覆います。
飛散するほこりや騒音を抑え、近隣への影響を最小限にするための措置です。
特に重機解体では大きな振動・騒音が発生しやすいため、周辺住民への事前周知や養生シートによる囲い込みが重要です。
残置物の撤去(不用品処分)
家屋内に残っている家具・家財道具やゴミなどを片付けます。
一般家庭の解体では、住人が退去した後も粗大ゴミや不用品が残っている場合が多く、それらを処分しなければ解体作業に入れません。
不要品の処理費用が別途かかることもあるため、可能なら事前に整理しておくと費用節減につながります。
内装解体・付帯物の撤去
建物本体を解体する前に、内部の仕上げ材や設備機器、屋外の付帯設備を取り外します。
たとえば窓ガラスや建具、照明器具、エアコン、配管類、屋根瓦、雨樋といったものです。
こうしたものを先行して外し、さらに木造建物の場合は人力で壁材や天井材を剥がす手壊し作業も行います。
手作業により廃材を種類ごとに分別(分別解体)しながら進めることで、後工程の重機解体を安全かつ効率的に実施できます。
建物本体の解体

重機(パワーショベル等)を使って建物そのものを解体します。
木造住宅であれば重機のアーム先端に「つかみ機」や「ブレーカー(破砕機)」を付け、上部から順に解体していきます。
鉄骨造やRC造(鉄筋コンクリート造)建物では、コンクリート圧砕機や大型カッターで構造体を切断・破砕する方法が用いられます。
いずれの場合も上から下へと少しずつ壊し、更に基礎部分も掘り起こして撤去します。倒壊の危険を防ぎ安全に進めることが最優先です。
廃材の分別処理
解体作業と並行して、出てきた廃材(木くず・コンクリート破片・金属くず等)を種類ごとに仕分けして処分します。
建設リサイクル法の定めにより、コンクリートや木材など特定建設資材は分別解体して再資源化を図る義務があります。
仕分けた廃棄物は提携する産業廃棄物処理業者の手で適正に処理・リサイクルされます。
不法投棄は厳しく禁じられており、依頼主も含め法令違反となるため注意が必要です(詳細は後述)。
整地・清掃
建物の撤去と廃材処理が完了したら、重機で地面を平らにならし整地します。
同時に釘やガラス片など危険物が残っていないか敷地内をくまなく清掃し、更地として引き渡せる状態に仕上げます。
綺麗に整地しておくことで、その後の新築工事もしやすくなります。
完了手続き

解体後は、必要に応じて行政・法務局での手続きが発生します。
建物が登記されている場合は、原則として滅失の日から1か月以内に、管轄の法務局へ建物滅失登記を申請します。
また、自治体によっては建築基準法に基づく「除却届」(例:解体する部分の床面積が10㎡を超える場合など)や、固定資産税の課税整理のための「建物取壊届/家屋滅失届」が必要になることがあります。
手続き要否は地域で異なるため、工事前に自治体・関係窓口へ確認しましょう。
以上が一般的な解体工事の流れです。
規模や構造によって工期は様々ですが、戸建て住宅の全解体であれば着工から完了までおよそ1週間~数週間程度が目安となります。
近隣環境への配慮と安全確保を徹底しながら、段取り良く進めていくことが大切です。
解体工事で守るべき法律・規制

解体工事を行う際には、関連する法律を遵守しなくてはなりません。
違反すると処罰の対象になるだけでなく、思わぬトラブルに発展する恐れもあります。
特に重要な法令として、以下のようなものがあります。
建設業法
「建設業法(昭和二十四年法律第百号)」は無許可業者による違法な施工を防ぎ、工事の安全と品質を確保するための法律です。
一定規模以上の工事を請け負う建設業者には建設業の許可が必要です。
解体工事は2016年より建設業の業種区分に追加されており、工事代金が500万円以上の場合は「解体工事業」の許可など適切な業種許可を取得した業者でなければ施工できません。
建設リサイクル法
正式には「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」といい、延べ床面積80㎡以上の建物の解体工事など一定規模以上の工事を対象に、分別解体と再資源化の実施、および事前届出を義務づけた法律です。
建築廃材のリサイクル促進と不法投棄防止が目的で、対象工事では都道府県知事等への届出を工事開始の7日前までに行わなければなりません。
届出は主に解体業者が代行しますが、発注者も内容を把握しておくことが大切です。
廃棄物処理法
正式には「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」です。
解体工事で発生する廃材は産業廃棄物として適正処理が必要です。
処理は許可業者へ委託し、マニフェスト等で最終処分まで管理します。
なお、委託した場合でも排出側の責任がなくなるわけではなく、不適正処理を行う業者に委託していたことが明らかになれば、排出側(発注者側)が措置命令の対象となる可能性があります。 (参考:環境省ホームページ『排出事業者責任の徹底について』)
そのため、契約前に許可の有無や委託範囲、マニフェスト運用を確認することが重要です。
労働安全衛生法
「労働安全衛生法」は、工事現場で働く労働者の安全と健康を守るための法律です。
高さ2m以上など墜落の危険がある作業では、手すり等の措置に加え、墜落制止用器具(旧称:安全帯)の使用など、墜落防止対策が求められます。
その他、足場の組立て等作業主任者の選任、石綿除去作業の届出と技術講習修了者の配置など、解体作業における具体的な安全基準が細かく定められています。
解体工事は危険を伴う作業のため、労災事故を防ぐ安全管理の徹底が求められます。
この他にも、騒音規制法・振動規制法や大気汚染防止法(石綿飛散防止の規制)など、解体工事に関連する環境面の法律・条例があります。
地域によっては工事の事前周知を義務付ける自治体条例がある場合もありますので、工事前には関係法令を十分確認しましょう。
適切に法律を守って工事を行うことで、近隣や環境への影響を最小限に抑え、安全で円滑な解体作業が実現できます。
解体工事に必要な許可・資格

安心して解体工事を任せられる業者かどうかを見極めるためにも、必要な許可や資格について知っておきましょう。
建設業許可(解体工事業)
前述のとおり、解体工事を請け負うには建設業法に基づく許可が必要になる場合があります。
特に請負金額が500万円以上の工事では「建設業の許可」を取得した業者でなければ施工できません。
解体工事業は専門工事としての許可区分が設けられており、土木一式・建築一式・とび土工コンクリート工事業の許可を持つ業者も解体工事を行うことができます。
許可業者には都道府県知事または国土交通大臣から許可証が交付され、営業所や工事現場に許可票を掲示する義務があります。
解体工事業登録
解体工事業者にはもう一つ、「解体工事業の登録制度」があります。
解体工事業の登録は、土木工事業・建築工事業・解体工事業のいずれかの建設業許可を受けている者を除き、解体工事を施工する場所の都道府県ごとに必要になります。
登録業者であれば建設業許可が無くても解体工事を行えますが、扱える工事規模に上限があります。
無許可・無登録で営業することはできませんし、許可や登録のない業者に依頼すると依頼主も罰せられる可能性があります。
解体を依頼する際は、業者がいずれかの許可または登録を正式に取得しているか必ず確認しましょう。
必要な資格(技術者・作業者の資格)
解体工事は重機の運転や足場組立て、危険物取扱いなど専門技能が要求される作業が多く、有資格者でなければ従事できない作業が多数あります。
例えば現場を統括する技術者には施工管理技士等の資格保有者を配置しなければなりませんし、アスベスト除去作業には「石綿作業主任者」、重機のオペレーターには「車両系建設機械」の運転技能講習修了者が必要です。
解体工事業者にはこれら資格を持つ人材が揃っていることが求められます。
一般的に解体業者が保有している代表的な資格には次のようなものがあります。
- 建築施工管理技士・土木施工管理技士(現場管理の国家資格)
- 解体工事施工技士(解体工事の施工管理等に必要な知識を問う資格)
- とび技能士(足場の組立て等の技能士資格)
- 車両系建設機械運転(解体用)
- 技能講習修了者(重機オペレーター資格)
- 石綿作業主任者(石綿作業の管理・指揮)
- 石綿取扱い作業従事者特別教育(石綿作業に従事する労働者への教育)
これらは一例ですが、解体工事においては許可を持った事業者であっても、現場作業員が無資格では工事に携われない決まりになっています。
許可も資格もない業者に依頼してしまうと法令違反となり、最悪の場合は依頼主まで処罰の対象になりかねません。
適切な許可・資格を備えた信頼できる業者に依頼することが大切です。
解体工事にかかる費用相場と費用のポイント
解体工事の費用は、建物の構造や規模、立地条件などによって大きく変動します。
ここでは一般的な費用相場の目安と、知っておきたい費用算出のポイントについて解説します。
解体費用の相場(構造別の目安)

住宅の解体費用は、建物の構造によっておおよその坪単価(1坪=約3.3㎡あたりの費用)が決まります。
以下は構造ごとの解体費用相場の目安です。
- 木造住宅:坪単価 約2万~4万円程度が相場です。たとえば延べ床面積30坪(約99㎡)の木造家屋なら、解体費用は概ね60万~120万円前後になります。
- 鉄骨造建物:坪単価 約4万~6万円程度が相場。鉄骨造の住宅(例:30坪)であれば、およそ120万~180万円が目安です。
- RC造建物:坪単価 約5万~10万円程度が相場。鉄筋コンクリート造の建物は構造が頑丈な分割高で、30坪規模でも150万~300万円ほどと木造に比べ高額になります。
※上記はあくまで目安で、立地条件(重機搬入の可否)、廃材処分費、付帯物撤去、アスベストの有無などで総額は大きく変動します。
解体費用が変動する主な要因

同じ延べ床面積・構造の建物でも、条件次第で解体費用には差が出ます。
費用を左右する主な要因として、次のようなポイントが挙げられます。
- 立地・作業環境:重機が入りにくい狭い道路に面している、隣家との距離が近く養生に手間がかかる、高所にあって資材搬出が大変、など作業環境が悪いと人力作業が増え費用が割高になります。逆に重機を使いやすく作業スペースに余裕がある現場は効率が良いため費用も抑えられます。
- 建物の状態:老朽化が激しい建物や火災で焼け落ちた建物などは、構造が脆くなっていたり安全な解体が難しかったりするため、追加の補強や慎重な作業が必要になります。その分工期が延びて費用も増加する傾向があります。
- 建物の規模・構造:同じ構造なら延べ床面積が大きいほど総費用は高くなりますが、坪当たり単価で見ると小規模建物ほど割高になりやすいです(重機搬入など一定の固定費用がかかるため)。また平屋より2階建て以上の建物の方が養生や足場が増え単価が上がる傾向にあります。逆に大きな建物では一坪あたり費用が多少割安になるケースもあります。
- 付帯工事の有無:建物本体の解体に加え、敷地内のブロック塀や樹木・庭石、駐車場のコンクリートなども同時に撤去する場合、その分の費用が追加されます。浄化槽の撤去や井戸埋めなど特殊な付帯工事がある場合も費用加算となります。
- 有害物の有無:アスベスト含有建材が使われている建物では、法規に沿った専門的な除去作業が必要なため費用が大幅に上乗せされます。PCBや土壌汚染など特殊なケースでも処理費用が高額になります。
このように様々な要因で費用は変わります。

正確な見積りを出すには現地調査が不可欠ですが、費用を安く抑えるコツも存在します。
例えば複数業者から相見積もりを取って比較することや、不用品は事前に自分で処分しておく、工事が立て込む繁忙期(年度末など)を避けオフシーズンに依頼する、といった方法です。
自治体の解体補助金制度が利用できる場合もありますので、条件に合えば活用するとよいでしょう。
まとめ

解体工事は一見「建物を壊すだけ」の単純な作業に思えますが、実際には専門知識と十分な準備が必要な複雑で重要な工事です。
法律に基づく届け出や適正処理、近隣への配慮、安全管理、そして許可・資格を持つ信頼できる業者の起用など、押さえるべきポイントが多岐にわたります。これらを怠るとトラブルや違法行為につながりかねません。
しかし、ポイントさえきちんと押さえて進めれば、解体工事は次のステップへの前向きな第一歩になります。
古い建物を取り壊して更地にすれば、新築や土地活用など新たな可能性が開けるでしょう。
疑問や不安がある場合は遠慮なく専門の解体業者や自治体の窓口に相談し、十分に説明を受けた上で計画を進めてください。
この記事の内容がお役に立ち、解体工事への理解が深まったのであれば幸いです。

