
長年住んだ家や使わなくなった建物を解体する時、その解体工事が無事に終われば一安心と思われる方も多いのではないでしょうか。
実は、建物がなくなった後にも、いくつか大切な手続きが残っています。
その中でも、本記事では「建物滅失証明書(たてものめっしつしょうめいしょ)」という書類について、詳しく解説していきたいと思います。
「建物滅失証明書」とは
建物滅失証明書(取り壊し証明書)は、解体工事を行った請負人(解体業者など)が「当該建物を取り壊した事実」を証明するために作成する書類です。
地域によっては、「解体証明書(かいたいしょうめいしょ)」や「建物取毀証明書(たてものとりこわししょうめいしょ)」と呼ばれることもあります。
法務局での滅失登記申請など、各種手続きで添付を求められることが多いため、解体後は早めに入手・保管しておきましょう。
「建物滅失証明書」はどんな時に必要?
建物滅失証明書が主に必要となるのは、建物の解体後に法務局で行う「建物滅失登記(たてものめっしつとうき)」という手続きの際です。
この登記を行うことで、登記簿から解体された建物の情報が抹消され、土地の状況が正確に記録されます。
しかし、建物滅失証明書が必要になるのは、この建物滅失登記だけではありません。
例えば、以下のような場合にも必要となることがあります。
- 固定資産税の課税を止めるため:固定資産税(家屋)の課税停止は、滅失登記だけで自動的に反映されるとは限りません。多くの自治体では、建物を取り壊した場合に「家屋滅失届」などの届出が必要で、届出がないと次年度以降も課税されることがあります。また、建物を取り壊すことで土地に適用されていた住宅用地特例が外れ、土地の税額が上がる場合もあります。自治体の資産税担当に、必要な届出と影響(賦課期日=1月1日を含む)を確認しましょう。
- 不動産売買や相続の手続き:土地を売却したり、相続したりする際に、その土地の上に建物が存在しないことを証明するために必要となることがあります。
- 解体補助金の申請:自治体によっては、建物の解体に対して補助金制度を設けている場合があります。そのような補助金を申請する際に、解体後の状況を証明する書類として建物滅失証明書が必要になることがあります。
- 災害による滅失の場合:火災などの災害で建物が滅失した場合は、解体工事の証明書(建物滅失証明書)ではなく、自治体等で取得する「罹災証明書」など、滅失の事実を示す資料を添付して滅失登記を申請するケースがあります。状況により求められる資料が異なるため、管轄の法務局に事前確認すると確実です。
このように、建物滅失証明書は、単に建物を壊したという事実を証明するだけでなく、その後の様々な手続きを進める上で非常に重要な役割を果たす書類なのです。
「建物滅失証明書」はなぜ必要?
建物滅失証明書がないと、登記簿上では建物が存在している状態のままになってしまい、土地取引や新たな建築許可申請などがスムーズに進められません。
例えば、登記簿情報と実際の現況にズレが生じると、金融機関からの融資が受けにくくなったり、土地売買契約が成立しないといった問題が発生することもあります。
そのため、建物滅失登記を行う必要があるのですが、建物滅失登記をおこなうさいに「建物滅失証明書」が必要になります。
もし、建物滅失登記を行わなかった場合、以下のような不都合が生じる可能性があります。
- 過料が科される可能性:滅失登記は、不動産登記法により「滅失の日から1か月以内」に申請する義務があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
- 固定資産税が課税され続ける:登記簿上は建物が存在しているとみなされるため、実際には取り壊された建物に対しても固定資産税が課税され続けてしまいます。
- 土地の売却や再建築が難しくなる:登記簿と実際の土地の状況が異なっていると、土地を売却しようとした際に買主に不信感を与えたり、手続きが複雑になったりして、売却の機会を逃してしまう可能性があります。また、更地になった土地に新しい建物を建てようとする際にも、滅失登記が完了していないと手続きが進められないことがあります。
- 相続手続きで問題が生じる可能性:建物の登記が残ったままになっていると、相続の手続きがスムーズに進まないことがあります。
このように、建物滅失証明書は、その後の重要な手続きを円滑に進めるために、非常に重要な役割を担っているのです。
建物滅失証明書の発行について

次に「建物滅失証明書」は誰が作成して、費用はどれくらいかかるのかをご説明していきたいと思います。
「建物滅失証明書」は誰が発行する?
建物滅失証明書は、一般的には建物の解体工事を請け負った解体業者が発行します。
解体工事が完了した後、業者から施主に渡されるのが一般的です。
ただし、場合によっては、建物の所有者自身が建物滅失証明書を作成することも可能です。
その際には、解体業者に内容を確認してもらい、署名と押印をしてもらう必要があります。
いずれにしても、建物滅失証明書は、建物の解体が完了した後に発行されるのが通常です。
解体工事の契約を結ぶ際に、解体業者に建物滅失証明書の発行について事前に確認しておくと安心でしょう。
「建物滅失証明書」の費用はいくらかかる?
建物滅失証明書そのものの発行手数料は、一般的に解体業者が無料で行ってくれることが多いようです。
契約時に建物滅失証明書の発行が解体費用に含まれているかどうかを必ず確認し、どのタイミングで発行されるのか、何部作成してもらえるのかといった細かな条件まで把握しておくと安心です。
これにより、後々のトラブルや想定外の費用負担を防ぐことができます。
「建物滅失証明書」はどれくらいの期間で発行される?
建物滅失証明書は、建物の解体工事が完了した後、比較的すぐに発行されることが多いです。
一般的には、解体業者に依頼すれば、1週間程度で発行されることが多いようです。
中には、解体工事完了と同時に発行してくれる業者もあります。
一方、建物滅失登記の手続き自体は、法務局に申請書類を提出してから、通常1週間から2週間程度で完了することが多いようです。
ただし、法務局の混雑状況によっては、もう少し時間がかかる場合もあります。
また、提出した書類に不備があった場合は、さらに時間がかかる可能性があります。
ここで注意しておきたいのは、建物滅失登記の申請期限です。
建物の滅失日から1ヶ月以内に行う必要があると法律で定められています。
この期限を過ぎてしまうと、過料が科される可能性もありますので、解体工事が完了したら、速やかに建物滅失証明書を取得し、登記の手続きを進めるようにしましょう。
解体工事の流れと証明書発行のタイミング

一般的な解体工事の流れは、まず解体業者との契約から始まり、近隣への挨拶、ライフラインの停止、足場の設置、建物の解体、廃棄物の処理、そして整地という段階を経て完了します。
この中で、建物滅失証明書が発行されるタイミングは、建物の物理的な解体が完了した後です。
解体業者によっては、工事完了の報告と一緒に建物滅失証明書を渡してくれる場合もありますし、施主から依頼することで発行してくれる場合もあります。
建物滅失証明書は、その後の法務局での建物滅失登記の手続きに必要となる重要な書類です。
解体工事が完了したら、解体業者に速やかに建物滅失証明書の発行を依頼するようにしましょう。
解体工事の契約時に、証明書の発行について確認しておくことも大切です。
なお、解体業者が不明・証明書を紛失した等で「建物滅失証明書(取り壊し証明書)」を取得できない場合でも、所有者が上申書を作成して申請するなど、代替資料で対応できるケースがあります。
具体的な要否・書式は法務局または土地家屋調査士に確認してください。
「建物滅失登記」とは
建物滅失証明書と建物滅失登記は、どちらも建物の解体に関わる重要な手続きですが、その性質は大きく異なります。
建物滅失証明書は、あくまで解体業者が発行する「建物が解体された事実を証明する書類」です。
一方、建物滅失登記は、解体された建物の情報を法務局の登記簿から抹消する、法的な手続きのことです。
建物滅失登記を行う上での主なポイントは以下の通りです。
- 申請期限:建物の解体日から1ヶ月以内に申請する必要があります。
- 罰則:期限内に申請を怠ると、過料が科される可能性があります。
- 必要性:固定資産税の課税を止めるため、土地の売却や再建築をスムーズに行うために必要です。
- 申請先:解体した建物の所在地を管轄する法務局に申請します。
- 申請者:建物の所有者本人、または相続人、あるいは土地家屋調査士に依頼して行います。司法書士は、権利に関する登記を扱いますが、建物滅失登記は建物の物理的な状況に関する登記のため、土地家屋調査士の業務となります。
- 必要書類:建物滅失登記申請書、建物滅失証明書、解体業者の資格証明書(法人の場合は会社登記簿謄本など)などが一般的に必要です。建物の登記簿謄本や地図なども必要になることがあります。
このように、建物滅失証明書は建物滅失登記という法的な手続きを進めるための、重要な添付書類の一つという関係になります。
滅失登記の添付書類はケースで異なりますが、一般的には「建物滅失証明書(取り壊し証明書)」に加えて、工事請負人が法人の場合は代表者の資格を証する書面や代表者印の印鑑証明書、個人の場合は個人の印鑑証明書の添付が求められることがあります(※法人番号の記載で省略できる場合もあります)。
建物滅失登記にかかる費用の目安
「建物滅失登記」の手続きは誰が登記手続きをするかで費用がかわってきます。
主な費用としては、以下のものが挙げられます。
- 登記事項証明書などの取得費用:建物滅失登記の申請には、解体する建物の登記情報が記載された登記事項証明書や、地図などの書類が必要になります。これらの書類を取得する際には、数百円から千円程度の費用がかかります。
- 土地家屋調査士への依頼費用:建物滅失登記の手続きは、自分で行うことも可能ですが、専門家である土地家屋調査士に依頼することもできます。その場合、土地家屋調査士への報酬として、一般的に3万円から6万円程度の費用がかかります。
- 自分で手続きする場合の費用:自分で建物滅失登記を行う場合は、主に書類の取得費用と、法務局までの交通費などがかかり、相場としては1千円から3千円程度で済むことが多いようです。
| 項目 | 費用(目安) |
| 書類取得費用(自分で申請) | 1,000円~3,000円 |
| 土地家屋調査士への依頼費用 | 30,000円~60,000円 |
建物滅失登記自体には、登録免許税などの税金はかかりません。
主な費用は、必要書類の取得実費や、土地家屋調査士へ依頼する場合の報酬です。
自分で手続きを行う場合は費用を抑えられますが、書類の準備や法務局での手続きに時間と手間がかかります。
一方、土地家屋調査士に依頼すれば、費用はかかりますが、煩雑な手続きを代行してもらえるというメリットがあります。
ご自身の状況に合わせて、どちらの方法を選ぶか検討しましょう。
まとめ

今回の記事では、建物滅失証明書とは何か、その取得方法や発行のタイミング、そして建物滅失登記との違いについて詳しく解説しました。
建物滅失証明書(取り壊し証明書)は、解体工事を行った請負人が建物の取り壊し事実を証明する書類で、法務局の滅失登記申請で添付を求められることが多い資料です。
滅失登記は原則として滅失の日から1か月以内に申請する義務があり、正当な理由なく怠ると過料の対象となる可能性があります。
また固定資産税については、滅失登記とは別に自治体への「家屋滅失届」等の届出が必要な場合があるため、解体後は自治体の資産税担当にも確認しましょう。
なお、証明書を取得できない場合でも上申書で対応できるケースがあるため、法務局または土地家屋調査士へ相談すると安心です。


